祭司になった女の子と、それを慕う20人の民衆たちは高台の頂上に到着した。
空には薄気味悪い雲、時が止まったかのような空から生ぬるい風が吹き頬を撫でる。
そんなことは起こるはずがないという民衆と、自分を疑い始めた女の子の目の前に広がる広い海がその姿を変貌させ始めた。
すーっと、静かに海水が沖へ沖へと引き始める。
「なんだ!あの黒いのは!!!」
男が叫んだ。
沖へ沖へと引いた水は、黒い水の塊となって押し寄せて来たのだ。
見たこともない大きく黒い水の塊は、凄まじいスピードで街を飲み込んでいった。
「…なんだこれは。何が起きているんだ」
「あぁぁぁっ…家が流されていく」
その凄惨な光景に20人の民衆は叫び驚愕し、言葉を失い
立ち尽くし、崩れ落ちていった。
祭司になった女の子が、何年もかけて民衆に伝え続けたことが今、目の前で現実となったのだ。
「やっぱり嘘じゃなかった…私は間違っていなかった…もっとちゃんと説明できてたら…」
黒い水の塊に飲まれる街を見ながら、女の子は何度も心の中でそうつぶやいた。
「なぁ…おかしいだろ…おかしいだろ!!!!」
突然、気が狂ったように男が叫びだした。
「こんな事はおきないんだよ!!起こるはずがないのに…こんな事起こせるってなんだよ!!!なぁ…波はこんな風には来ないんだよ!!お前が来るまでこんな事は起きたことがないんだよ!!!!!」
その言葉に、女の子は絶望した。
「何で説明できないんだろう、自分じゃなければできたのに…」
女の子は、自分の力不足に打ちのめされながら、
本当は一緒に降りるはずだったもう一人の存在を思い出していたのだった。
失望感と欠乏感が全身を駆け巡る。
男の言葉に反応するように、目の前に起こる受け入れられない現実に残りの民衆もやり場のない感情を女の子にぶつけ始めた。
「なんで、もっとちゃんと説得して連れてきてくれなかったんだよ」
そう言って、石を投げつける者もいた。
津波が去った後も、生き残った民衆は女の子を責め続けた。
それだけではなく、死んでいった村の民も
「どうして、信じさせてくれなかったの?」
「どうして、無理やりにでも説得してくれなかったんだ」
と、女の子を責め続けたのだった。
そして女の子は、自分自身を責め続けた。
本当は、少し前から津波から皆を救うためには
自分ひとりの力だけでは足りないと知っていた
こんな半端な力じゃ役に立たないと感じていた
「ほらね、無理だよ…やっぱり無理だった。こんな半端な力なんていらなかったんだ。なのにどうして、どうにもできない未来ばかり見せるの?こんな力…いらない…」
そう何度も心の中で叫びながら、
その後の残りの人生を女の子は死んだように生きていった。
そして、天に帰る日。
「あはは、そりゃ、無理だよね。だって元々ペアだったからね。
なんだろ、私だけバカみたい。
でも…どうしてあの人は来てくれなかったんだろう。どうして、私を一人にしたんだろう?
私の事なんてもうどうでもいいんだよね?うん、きっとそう。
私のことが嫌いだから一緒に来てくれなかったんでしょ?そしたら、もう私の帰る場所はないよ…。もういっそ、消えてなくなった方がいいよね。そうだよ、それが一番いいよ。」
そう言うと、女の子は自分の魂をチリのように粉々にして、
誰にも見つけられないように、遠くに遠くに
バラバラに宇宙のどこかへ消し去ってしまった。
つづく
お話会のお知らせです
日時:9月17日(日曜日) 13:00~16:00
場所:山手線沿線
(お申込みいただいた方に詳細をご連絡いたします)
定員:9名(先着順)
参加費:12,000円(当日、現金支払いにて)

