僕らはとりあえず幹線道路を東に進むこととした。

三十代になったKは相変わらず完璧だった。

あえて言うなら身体つきが変わったとこだろう。

細身であることは変わりなかったが、しっかりとした質のよい筋肉が身体全体に均一についていた。

そしてそれは彼を青年ではなく男性というものに変化させていた。

 

「元気にしてたのか」とKは言った。

 

「まぁ、元気と言えば元気。病気もせず怪我もせず」

 

「随分老人臭い言い方だな。俺が言っていることはそういうことじゃない」

 

そうKが言ったあと少しの沈黙があった。

 

「彼女に振られたんだ」

 

 

赤信号で車は停車した。

母と子が手をつなぎ横断歩道を渡っていた。

車内にはミスター・ビッグの音楽が流れていた。

それを聴いて僕は懐かしく思った。

 

「懐かしいな。この歌」と僕は言った。

 

また少しの沈黙があった。

 

「ひどい顔をしている」とKは言った。

 

「そうかな」

 

「鏡で自分の顔をよく見た方がいい。うまくいってなかったのか?」

 

「悪くはなかったと思う」

 

「でも良くはなかった」

 

「別れるちょっと前から連絡が取りづらい感じにはなっていたのは確かだね。子育てや仕事や家事に忙しい人だったから。親のサポートもあまりない感じだった」

 

「それで?」

 

「僕とはやっていけないって」

 

「その理由は?」

 

「理由…」

 

「別れた理由」

 

「聞かなかった…」

 

「なぜ?」

 

確かに僕は彼女から別れたい理由を聞いていない。

なぜ聞かなかったのだろう。

Kの言うとおりだ。

理由を聞くのが怖かったというわけでもない気がする。

聞いたところでもう彼女の気持ちは固まっていた訳だから聞いても仕方がないとも思った気もする。

かといって僕も最初からさっぱり諦めていたわけでもない。

できることはしたと思っている。

僕なりに頑張って関係を修復しようとしたとも思う。

しかし結局考えてもはっきりとしたものは僕の中に見当たらなかった。