入院してた市立病院の大部屋で 小さくてかわいらしい おばあちゃんが一緒だった。
80才くらい? 女性に歳は聞きにくい。
髪は染めてて 真っ黒
持ち込みのカップやタオルは華やかな柄物で
若々しくあろうと頑張ってるのが うかがえた。
一人暮らしで なんでも出来るのが ご自慢だった。
そんな 小さなおばあちゃんに事件は起こった。
病室で転んでしまった。
と言っても ストンと尻もちをついた程度
でも ご高齢の方にとっては、これが致命傷になることが多い。
骨折して二度と歩けなくなってしまう。
幸いに なんとも無かったようだが、
看護師さん達が駆けつけて来て 騒然となった。
ケアマネらしき人、ドクターらしき人、次々にやってきて
「退院後のことを ご家族とお話ししたい」
といった内容を言っていた。
翌日 おばあちゃんのご家族? お子さん達(おじさん おばさん)がやって来た。
別室へ移動しての話し合いだったので 詳しくはわからなかったが、
どうやら 退院後は、自宅に戻らず 施設に行くことになったようだった。
明らかに 小さなおばあちゃんは しょげていた。
その日の深夜
病室では使用が禁じられているケータイで 小さなおばあちゃんは 電話をかけた。
静まりかえった部屋の中、薄いカーテンの向こう側から 声がこぼれていた。
他の患者さんは もう寝てしまっているのか、知らぬフリをしているのか…
電話相手は、耳の遠いお年寄りに話す時の独特の 大きな声、
会話は筒抜けで聞こえてきた。
相手は 娘さんのようだった。
「……」
「おかあさん どうしたん、何かあったん?」
「ううん」
「ショックなん わかるで、でも しかたないやん」
「うん」
「いつかは考えなあかんことやってんから」
「うん うん わかってる」
「なんも心配ないで」
「明日 来る?」
「行くわ 行くから」
「ごはんのとき?」
「一緒に食べたいん? わかった。食べるモン持って行くわ、一緒に食べよう」
「ごはん 待ってる」
「心ボソなったら いつでもこうして電話できるから 大丈夫やって」
「ごめんな」
「謝らんでええ。ちゃんと寝なあかんで」
きっと 小さなおばあちゃんは、今は亡き愛するおじいちゃんと共に 可愛い子どもたちを育てた 思い出のつまった家で 余生を過ごそうと思っていたのだろう。
だから 一人暮らしでも しっかりしよう!若々しくあろう!と 一人で生きていくことを頑張ってきたに違いない。
私は足の手術だったけど、この夜は 胸の方がはるかに痛んだ。
誰しも 体力が衰えて 先行きの不安を抱える年齢がおとずれる。
碧い 静かな夜
今日は 月も見えない
付き合っていただいて ありがとうございます。