一枚 | もうすこし、生きてみようじゃないか・・・


 子供の頃の思い出は数え切れないほどあるが、その中で、今でも強くまぶた


に焼きついている光景がいくつかある。 嬉しかったことや悲しかったこと様々


だが、次に書く出来事は、思い出の中でも一枚の画のように、ある光景が今で


も強く印象に残っている。






 あれは、小学三年生の頃だったか、私はいつものようにクラスメート数人と


遊んでいた。 今考えると、よくも毎日毎日同じ顔ぶれで飽きもせず集まって


いたなと思うが、私にとって、あの空間が社会であり世界の中心であった。


中年になった今は、自宅のパソコンの前が社会であり世界の中心で、子供の


頃より狭まっている感があるという現実は、この際、闇に葬り去り忘れることに


する。






 その日、私たちはケンちゃんの家の近所で遊んでいた。 ケンちゃんは、とて


も頭が良く、成績も学年でトップクラス。  選ばれしバカであるところの我々の


中では異色の存在であった。 


 そのケンちゃんが、我々と合流するべく家から飛び出してきた。 手にチーズ


ビットという袋菓子を持ち、それを嬉しそうに食べながら、こちらへ駆けてくる。


私たちも手を上げてケンちゃんの笑顔に答える。 と、その時、そのままの勢い


で道路に飛び出してしまったケンちゃんが、走ってきた車にはねられた。






 辺りはまるで時間が止まったかのように静まり返った。 ケンちゃんが車には


ねられた・・・。 固唾を飲んで状況を見守る我々。 しかし、我々が見守る中、


ケンちゃんはムクリと身を起こし、すっくと立ちあがった。 幸い車にスピードは


出ておらず、ケンちゃんにケガはなかった。






 親友が目の前で車にはねられたという出来事。 通常であれば、はねられた


瞬間や、その直後の静寂が強く印象に残りそうなものだが、この出来事を思い


出す時、真っ先に浮かぶのは、

 

 

 




チーズビットである。 アスファルトに散らばったチーズビットが強くまぶたに焼き


ついている。 なぜこの光景なのだろうか。 もったいないと思ったのか。 それも


あるだろうが、恐らく、チーズビットが事故前と事故後の象徴のように見えたから


だろう。 つい先ほどまで嬉しさいっぱいの手に抱えられていたチーズビットが、


打って変わり車にはねられた跡へと一転したのである。 まあ、ケンちゃんがケガ


もなく無事だったので、余計にこちらが印象に残ったのかもしれない。 その後は、


安堵からか、我々はいつまでも笑っていた。






 ケンちゃんとは、小学校を卒業と同時に会わなくなってしまったが、今は、どこで


何をしているのだろうか。 まあ、間違いなく私とは比べ物にならないくらい広い世


界の中心で活躍していることだろう。 チーズビットは今でも好きなのだろうか。

 

 

 

 

 

亀久

 

 

 

 

 

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