「今のハインリヒさんはとても幸せそうです
けど、何か願い事とかありますか?」
「そうだな、今の暮らしに不満はない。だが、
生きていた時は孤独と不安と絶望で気が狂い
そうだった。もし私と同じ病に罹りながらも
人々に慕われ、気高い生涯を送った王がいる
ならば、会って話がしてみたい」
「バルさん、誰か知りません?歴史は得意で
すよね」
「ええと、エルサレム王国のボードゥアン4世
は同じ病に罹り若くして亡くなったけど、奇
跡を起こし、聖人のように思われています」
「それなら今から会いに行きましょう」
「ラパン、ボードゥアン4世は聖人のように思
われた人だよ。もうとっくに天国へ行っている
から簡単には会えない」
「大丈夫です。ボードゥアン4世が生きていた
時代に行けば会うことができます」
「そんなことができるの?」
「真実の丘に咲く白詰草があればどんなこと
でもできます。さあみんな、私につかまって
目をつぶってください」
「さあ、着きました。ボードゥアン4世が
生きていた時代のエルサレム王国です」
「ここがそうなの?さっきとあまり変わら
ない気がするけど・・・ハインリヒさんと
ドン・グリさんがいて・・・あれっ、ウサ
コさんとウサ吉さんがいない・・・」
「ほっといてください。あの2人はこっそ
り抜け出してデートしているのです。同じ
時代には来ているはずです。あれ、すぐ近
くにボードゥアン4世がいるはずなのに姿
が見えない・・・まさか・・・そんなこと」
「ラパン、何を慌てているの?」
「バルさん、大変なことになりました。ハ
インリヒさんがボードゥアン4世の体の中
に入っているのです」
「え、それはどういうこと?」
「ハインリヒさんがボードゥアン4世になり
きって演技をしなければならないのです。
しかもちょうど今大勢の敵に囲まれている
のです」
「わーい、ハインリヒ様と一緒に戦えるな
んて。僕、こういう日が来ることをずっと
夢見ていたんです」
「ドン・グリよ。そんな甘い状況ではなさ
そうだ。大勢の敵に囲まれて、ボードゥア
ン4世はどうした?」
「馬から降りて手に持っていた十字架を地
面に突き刺し、涙ながらに神に祈りを捧げ
ました。その様子を見て兵士たちは一歩も
引かずに戦うと誓い合ったのです」
「ハインリヒさん、同じことしてください。
歴史を変えてはいけないのです」
「でも、十字架はどこにある?」
「あそこにあります!僕の作った剣は十字架
にも見えます」
「なるほど、これを十字架に見立てて祈りを
捧げればいいのだな」
「そうです。その後は剣を持って戦ってくだ
さい」
「ハインリヒ様と一緒に戦えるのですね。僕
はもうワクワクしてきました。神様はすごい
です。僕の願いを全部叶えてくれます」
「ドン・グリ、今まで戦いに行った経験はあ
るのか?」
「ありません!」
「しかたがない。とにかく私のそばを離れる
な」
「ウサ吉が敵を足止めしています。こっちに
はそれほど多くはこないでしょう」
「どうやら助かったようだ」
「奇跡が起きて敵はみんな逃げ出したと本
には書いてありました」
「よかった、歴史を変えることなく危機を
脱することができました」
ー続くー




