
まだ私が20代だった頃
一度だけスキューバダイビングに
チャレンジしたことがあった
当時ニューヨークに住んでいた私は
オフ・ブロードウェイで
活躍中の日本人トニー山口さんに
ハワイ在住の
ダイビングインストラクターの方を
紹介していただいた
ニューヨークの雑踏に
2年も住んでいると
衝動的に
大自然のなかに
身を置きたくなることがある
イーストビレッジ近くの本屋で
鯨の写真集を手にとった
私は鯨に会いたくなった
その事を
ハワイに住んでいた経験のある
トニー山口さんに話をすると
ハワイに住む友人が
ダイビングのインストラクターやっていて
確か鯨を見たことある
と言っていたと教えてくれた
会社に
3日間の休みをもらった
私はオアフ島沖にいた
インストラクターの矢島さんと
ハワイの海に潜った
何処までも深い深い海
コバルトブルー
本当に
コバルトブルーの色をしている
赤や青
そして黄色
原色の魚が群れをなして泳ぐ
でも鯨はいなかった
あと10分で
ボンベの酸素がなくなる時間
頭の奥で
微かな音が聞こえる
大学生の時に買った
鯨の鳴き声のCDの音
鯨に会いたい
その一心からくる幻聴
私はそう思った
一緒に
潜ってくれていた矢島さんが
私を見て
水中レンズ越しに
微笑んだ
そして
右手で
遠くを指さした
大きな
大きな
ザトウクジラが近づいてくる
子どものクジラも一緒だ
クジラたちは
私たちのまわりを
悠然と泳ぎつづける
大きな鳴き声
小さな鳴き声
遠くから
近くから 聞えてくる