恵子さん(仮名)は看護師さん、彼女が経験したお話。
その日は夜勤の日だったそうです。
汚れ物の台車を押してエレベータに向かいます。
エレベーターの前には先輩看護師の由美さん(仮名)が
回診車に手をかけてエレベーターを待っていました。
2人は上階に行くために、下から上がってくる
エレベーターが示す光る階数表示を無言で見上げて
いました。
「あなたって、見える人」
由美さんがいきなり恵子さんに尋ねました。
「え、見える? なんですか?」
恵子さんは由美さんの横顔を見ながら聞き返しました。
「うん、なんでもない」
由美さんがそう言ったとき、エレベーターが停止して、
広いドアが開き、二人はエレベーターに乗り込みました。
2人が乗るとブザーが鳴りました。
驚いた恵子さんはエレベーターの中を見回しましたが、
ブザーが鳴るような原因が見当たりません。
「なんで?」
困惑する恵子さん
「重量オーバーだわ、降りましょう」
由美さんは笑いながら、エレベーターから降りました。
しかし、恵子さんは意味がわからず、茫然とエレベーターの
中から降りた由美さんを見ています。
「降りて」
由美さんに促されて恵子さんがエレベーターから出ると
ブザーの音は止まり、ドアが閉まって、エレベーターは
上の階に向かってゆきました。
由美さんは階数表示のランプを見つめ、上階で止まったのを
確認すると、「上」のボタンを押しました。
エレベーターは降りてきて、2人は再び中に乗り込みましたが
こんどはブザーが鳴ることはありませんでした。
「さっきはね、たくさん乗ってたのよ」
怪訝そうな顔をしている恵子さんに由美さんはそう言いました。
「たくさん・・・・ですか?」
恵子さんは上階へのボタンを押しながら聞き返しました。
「エレベーター、地階の安置所から来たの。今日は誰も亡くなって
いないのに、なぜ地階から来るんだろう?って思ってた、地階で
たくさん乗ったんでしょうね」
由美さんは床を見つめながらそう答えた。
「なにが乗ったんですか?」とは、恵子さんは聞けなかったと。
すると、由美さんはいきなり笑い出したのです。
「ああいうのって体重は無いじゃない。それなのにさ、
このエレベーターは律儀に重量オーバーのブザーを鳴らしたのよ
笑えるわよね」
由美さんはそう言ってケラケラと笑いましたが、恵子さんは
とても笑う気にはなれなかったそうです。
なんて、律儀で、仕事熱心なエレベーターなんでしょうか、
感心しますね。


