私がまだ小学一年生の頃のことです。
父の転勤で函館に住んでいた頃、
父の会社の社員家族みんなで青函連絡船に乗り、
弘前へ花見旅行に出かけました。
弘前公園の桜は、それはもう見事でした。
北海道では見たことのない枝垂れ桜が風に揺れ、幼い私はただ見惚れていました。
昼間は長勝寺を訪れ、ミイラを見学しました。
「怖い、怖い」と言いながらも、不思議な気持ちで見学したことを覚えています。
その夜は、大人数だったため、
お寺の宿坊に泊まることになっていました。
大人たちは宴会をしていましたが、
子どもたちは大広間の障子際に布団を並べ、
疲れてすぐに眠ってしまいました。
夜中だったと思います。
「チーン……チーン……」
静かな鐘の音で目が覚めました。
まだ朝ではありません。
周りを見ると、みんなぐっすり眠っています。
半分眠り、半分起きているような状態で
耳を澄ませていると、
私のすぐ隣の壁の向こうを、
鐘を鳴らしながら何人もの人が
歩いていく気配がしました。
「お坊さんのお勤めかな。」
幼い私はそう思い、怖くはありませんでした。
でも不思議なことに、目を閉じたままなのに、
黒い衣をまとった僧侶たちの列が
脳裏にはっきりと見えるのです。
十人、十五人ほどでしょうか。
皆、静かに歩き、縁側を進み、
角を右へ曲がっていきました。
鐘の音が遠ざかると、
私はそのまま再び眠りにつきました。
翌朝。
母に昨夜のことを話しました。
「夜、お坊さんたち歩いていたよね。鐘を鳴らしながら。」
母は一瞬驚いた顔をして、
私の耳元で小さく言いました。
「そんなこと言わないの。」
そして障子を開けました。
私は思わず息をのみました。
そこには、昨夜お坊さんたちが歩いていたはずの廊下も縁側もありません。
外だったのです。
昨夜、僧侶たちが曲がって行ったと思った
方向を見ると、その先には墓地が
広がっていました。
夜に到着したため、
私は何も気づいていなかったのです。
さらにそのお寺には、
その土地の殿様の墓所もありました。
朝日に照らされた墓所の前で、
幼い私は自然と手を合わせていました。
大人になってから、
母方の工藤家のルーツが
青森や岩手にあることを知りました。
あの夜の出来事は何だったのでしょう。
ご先祖様が、お墓の場所を
教えてくれたのでしょうか。
それとも、お寺に眠る方々のお勤めの時間に、
たまたま幼い私の感覚が触れただけだったのでしょうか。
答えは今もわかりません。
けれど、お盆が近づくたび、
あの静かな鐘の音と、黒い衣のお坊さまたちの列を思い出します。
そして、ご先祖様に手を合わせたくなるのです。
あの不思議な夜は、
今も私の心の中で、
夏の記憶として静かに生き続けています。
いまならリアルにこわいんだけどね。。。
マリア

