日本における自己免疫性小脳失調症の全国実態調査を実施
~早期治療が症状改善につながる可能性を示唆~
2026年4月14日
北海道大学
岐阜大学
国立精神・神経医療研究センター
ポイント
・自己免疫性小脳失調症について、日本全国の神経内科施設を対象とした調査を実施。
・全国830施設の調査から、日本における診療の実態と課題を解明。
・早期診断早期治療が重要であることが示唆された一方、迅速な診断が困難な現状を示唆。
概要
北海道大学大学院医学研究院の藤井信太朗特任助教、矢口裕章准教授、工藤彰彦特任助教、矢部一郎教授らの研究グループは、福井県立大学の米田 誠教授、新潟大学の田中惠子非常勤講師、岐阜大学大学院医学系研究科の木村暁夫准教授と下畑享良教授、国立精神・神経医療研究センター病院の髙橋祐二特命副院長と国立精神・神経医療研究センター水澤英洋理事長特任補佐・名誉理事長との共同研究において、Japan Consortium of autoimmune cerebellar ataxia (JAC-ACA) groupとして自己免疫性小脳失調症*1(autoimmune cerebellar ataxia:ACA)に関する全国調査を実施しました。
小脳性運動失調症は、小脳の障害により「ふらつき」「歩きにくさ」「ろれつが回りにくい」などの症状を生じる病気の総称です。
日本では約4万人の患者がいるとされ、そのうち約1万人は原因が分かっていません。
近年、この原因不明の小脳性運動失調症の一部が、免疫の異常によって起こる「自己免疫性小脳失調症」である可能性が報告されています。
この病気は免疫治療によって改善する可能性があるため、早期診断が重要と考えられています。
しかし、自己免疫性小脳失調症は診断方法が十分に確立されておらず、全国的な実態も明らかになっていませんでした。
そこで本研究では、日本神経学会の教育施設など全国830施設を対象に、臨床的に自己免疫性小脳失調症と診断された患者(clinically diagnosed ACA:cdACA)について調査を行いました。対象施設で155例の患者が確認され、そのうち詳細な臨床情報が得られた92例について解析を行いました。
その結果、免疫治療を受けた患者の約3分の2で症状の改善がみられました。
また、発症から治療開始までの期間が短い患者ほど、治療効果が得られやすい傾向が示されました。
本研究は、日本における自己免疫性小脳失調症に関する診療実態を明らかにした全国調査です。
今後、抗体検査体制の整備や診断基準の確立につながることが期待されます。
なお、本研究成果は、2026年3月17日(火)に神経学分野の国際学術誌「Journal of Neurology」にオンライン掲載されました。
背景
小脳性運動失調症は、小脳の障害により、ふらつき、歩きにくさ、めまい、しゃべりにくさなどの症状が現れる病気の総称です。
日本では約4万人の患者がいるとされています。そのうち約3万人は神経変性疾患や遺伝性疾患が原因ですが、残りの約1万人は原因が分かっていません。
近年、この原因不明の小脳性運動失調症の一部は、免疫の異常によって発症する「自己免疫性小脳失調症」であることが報告されています。
この病気は免疫治療によって改善する可能性があるため、「治療可能な小脳失調症」として注目されています。
一方で、自己免疫性小脳失調症は診断に用いる抗体検査の体制が十分に整っておらず、国際的にも診断基準が完全には確立されていません。
また、全国規模で診療の実態を調べた研究もほとんどありませんでした。
そこで研究グループは、日本における自己免疫性小脳失調症の診療実態を明らかにすることを目的として、臨床的に自己免疫性小脳失調症の診断に至った例の全国調査を実施しました。
研究手法
本研究では、日本神経学会の教育施設及び准教育施設など、神経疾患の専門診療を行う全国830施設を対象として調査を行いました。
まず一次調査として、2022年1月から12月までの1年間に臨床的に自己免疫性小脳失調症と診断された患者数を調査しました。
その結果、453施設から回答があり、そのうち85施設で計155例の患者が報告されました。次に二次調査最終的に92例の患者について解析を行いました。
解析では、発症年齢、性別、症状、悪性腫瘍の有無、髄液検査、自己抗体、画像所見、免疫治療への反応などを検討しました。なお、本研究は北海道大学病院臨床研究管理センターより承認を受け実施しました(022-0254)。
研究成果
解析の結果、臨床的に診断された自己免疫性小脳失調症92例のうち80例が免疫治療を受けており、そのうち53例(約66%)で症状の改善がみられました。
なお、この92例中悪性腫瘍が合併していた症例は25例でした。
悪性腫瘍を合併していた25例では、小細胞がんが12例と最多であり、乳がんと卵巣がんが次いで多い結果となっています。
また、治療が有効であった患者では、発症から治療開始までの期間が短いこと、悪性腫瘍を合併率が低いことなどが関連していました(図1)。
一方で悪性腫瘍が合併していた症例の一部でも悪性腫瘍治療と免疫療法で症状の改善を認めた症例も一定数存在する可能性が示されました。
さらに欧米で提案されている診断基準と比較したところ、臨床的に自己免疫性小脳失調症と診断された患者の多くが既存の診断基準を満たさないことも分かりました。
この結果は、現在の診断基準では実際の臨床現場の症例を十分に捉えきれていない可能性や、自己免疫性小脳失調症の診断に難渋する現状を示しているものと考えられます。
今後への期待
本研究により、2022年時点の日本における自己免疫性小脳失調症の診療実態と課題が明らかになりました。
自己免疫性小脳失調症は早期に診断し治療を開始することで、症状の改善が期待できる可能性があります。
その一方、疾患概念が未確立であるため正確な診断が困難な実情があります。必要な患者さんに対して十分な治療を行うために、正確で迅速な診断方法と診断基準の確立が望まれます(図2)。
また自己免疫性小脳失調症は歴史的にも傍腫瘍性症候群*2として疾患概念が確立してきた経緯があり、今回の調査においても悪性腫瘍の合併が重要なポイントの一つであったと考えられます。
近年の悪性腫瘍治療進歩に伴い、傍腫瘍性症候群の観点からも自己免疫性小脳失調症への注目がさらに必要と考えられます。
当研究グループでは本邦での抗体測定系の確立と抗体測定を継続しています。
また全国の研究機関と連携し、自己抗体を含めたバイオマーカーに基づく自己免疫性小脳失調症の診断方法の確立と治療法の発展を目指した研究を継続しています。
将来的にはこのようなバイオマーカーに基づいた再度の全国調査も考えています。

国立精神・神経医療研究センター 4月14日
https://www.ncnp.go.jp/topics/
