love&hate
父が出て行ったのは私が三歳の頃だと聞いた。もちろん私は何も覚えていない。ただそれまでは父が帰宅すると一緒にお風呂に入るのがとても楽しみだったことが脳裏に残っている。不思議なことに家を出た後も父はたまに遊びに来ていたし、時々待ち合わせて私をデパートやレストランに連れて行ってくれた。両親が離婚していたことを認識したのは小学四年の時だった。ある日何かの折に母の先夫の娘、つまり八歳年上の姉から告げられた。「ふうん、そうなの」と思っただけで特にショックを受けた覚えはない。でも何故私だけが父の姓を名乗り母や姉とは違うのだろうと思い母に尋ねてみた。「お父さんはこの先財産を残すだろうし、あなたが遺産をもらえるように戸籍はお父さんに渡して私が育てることにしたのよ」と。大人になって調べたらそんなことはどちらでも良く実子であれば相続権はあるのだ。母は無知だったのか、それとも父を奪った若い女への嫌がらせだったのか。時に学校では教師がうっかり姉の姓で私を呼んで、すぐに正し申し訳なさそうにするのだけれど、母や姉と姓が違うこともさほど嫌だとは感じなかった。
(続く)