さて、【耳囊】 ある大名が、痙瘡(病状不明)を煩い、あれこれの医者に治療させたが効果がなかった。 病に苦しむ中、 「吉永正庵という医者を呼んで治療させれば、よくなるだろう」 と言われた夢を見た。 おぼろげながらも、医者の名前ははっきりと覚えていたし、屋敷から東北の方にいると告げられたことでもあり、 「そういうこともあるかもしれない」 と家来に手分けして方々を尋ねさせたが、吉永正庵という医者は見つからなかった。 そんなある日、身分の軽い者が両国辺りの見せ物や辻売りなどを冷やかしながらぶらついていたところ、橋際に筵を敷いて薬を売っている者がおり、看板に「吉永正庵」とある。 住所を尋ねると本所辺の裏店に住まっていると答えた。 確かに吉永正庵ではあるが、あまりみすぼらしい売薬売りのなりをしているので、 「このまま連れて帰るのもどうしたものか」 とひとまず屋敷に帰って上役に事情を話し、主人へも話したところが、元々夢から出た話である。 「そういうこともある。なに問題ない。すぐに呼べ」 ということで、かの吉永正庵を呼び寄せた。 正庵は主の腫れ物を見ると、 「早速治療しましょう」 というなり、手持ちの薬を処方した。 すると、不思議にも快癒したという話である。 【耳嚢(みみぶくろ)】 総目次(2018.5.17)