歳時記
芒種/蟷螂生(ぼうしゅ/かまきりしょうず) 穀物の種をまく頃、昨年秋に生みつけられたカマキリの卵から、数百匹ものカマキリの子が次々と現れ始める。
歳時記余話
リアリズム・自然界の絶対秩序
(中江藤樹 第4回、内村鑑三・小林秀雄・渡部昇一の視点)
◆ 自然界の冷徹なリアリズム
恋愛や夫婦の愛の本質は何か。 この問いに答えるためには、 人間の感情ではなく、自然界の冷徹なリアリズムを見つめる必要がある。
春になれば、動物たちは発情期を迎え、「つがい(夫婦)」を作る。 現代人の「恋愛至上主義」に洗脳された頭で見れば、「つがい」は「ロマンチックな恋愛」に見えるかもしれない。 しかし天地自然の視点から見れば、その目的はただ一つ。
「子を生み、育て、命を縦に繋ぐこと」である。 これ以外に自然界の目的は存在しない。子を産まない「つがい」は淘汰の対象でしかない。自然の絶対秩序は、つがいはこの生命の縦軸を生み出すための方法論にすぎないということである。
◆ 親鳥の命がけの抱卵に宿る「宇宙の意志」
親鳥が猛禽類の襲撃から我が子を守るため、 自らの身体を盾にして命がけで戦う姿を、私たちは知っている。
そこにあるのは、 一瞬の情熱などという生ぬるい感情ではない。 宇宙が生命に埋め込んだ「縦の意志」である。 “命を次に繋げ”という、絶対的で抗えない宇宙の命令である。内村鑑三が万物の背景に見出した『絶対的な宇宙の秩序』である。
恋愛はこの縦の意志を実現するための“補助線”だ。 夫婦(つがい)は、宇宙が生命の縦軸を生み出すための仕組みである。宇宙の目的そのものではない。
◆ 恋愛を人生の中心に置くと、人生は必ず崩壊する
恋愛は悪ではない。 宇宙の目的のために必要な補助線である。しかし、その恋愛を人生の中心に置くと、人生は必ず崩壊する。
なぜか。
恋愛は「横の関係」だからだ。 横の関係には宇宙の生命は宿らない。だから横の関係は刺激がなければ続かない。 幻想が壊れれば終わる。 承認欲求が満たされなければ不満が爆発する。
すでに現代日本人は、 宇宙が生命に埋め込んだ使命を忘れ去った。―― 生命の宿る「縦の線」こそが至上の価値であることを完全に忘れ去った。あくなき「横の快楽」の泥沼で溺れている。刺激が足りない、幻想が壊れた、飽きた、もっと欲しいと騒ぎ立て、その結果、離婚や家族崩壊を繰り返し、孤独、絶望、悔恨に苛まれている。
◆ 選べない『必然』を受け入れるとき(小林秀雄の直観)
小林秀雄は、この欺瞞を恐ろしいほどの冷徹さで射抜いた。「恋愛は、自分で選んだつもりの『偶然』にすぎない。 しかし親子は、選ぶことのできない『必然』である」。 流木(偶然)は簡単に流される。 大樹の根(必然)は大地に深く張り、決して動かない。小林は、自らの宿命(選ぶことのできない必然)を受け入れたときに本物の知恵と力が湧くと信じた。
現代日本人が崇拝している恋愛―― 自分で選べる関係、 自分の都合でいつでも切り捨てられる関係―― そこに魂の救済はない。魂は「選ぶことのできない必然」を求める。そこは魂の親である宇宙の意志が働いているからだ。
◆ 日本民族の縦の文明を滅ぼさないように(渡部昇一の直観)
ここに渡部昇一の視点を重ねると、問題はさらに深刻になる。 渡部は「文明は『縦の線』でしか維持できない」と繰り返し述べた。文明とは、「親から子へ」、「師から弟子へ」、「祖先から子孫へ」という『縦の継承』によってのみ存続する。
横の快楽に溺れた民族は、縦の継承を失い、文明そのものが崩壊する。恋愛至上主義とは個人だけの問題ではない。文明を滅ぼす歴史的病である。渡部は、戦後日本が「国家よりも個人の快楽を優先する社会」へと変質した瞬間、文明の背骨が折れたことを見抜いた。 恋愛至上主義とは、文明の背骨(縦の線)を折るための“横の誘惑”である。世界で唯一、旧石器時代~縄文時代~現代と一貫している日本民族の4万年の縦の文明、その継続は日本民族の使命である。
◆ 次回予告
次回は、 「恋愛至上主義の崩壊」から「宇宙の縦の線への転換」を描く。
- 選べない必然
- 宇宙の秩序は縦である
- 藤樹の宇宙倫理の核心
- 恋愛至上主義の終焉と魂の再生
- 次回「団塊世代の歴史の病」予告
読者の魂が「縦の宇宙軸」へ引き上げられる段階に入ります。
(次回へ続く)
ご参考
1)4万年の連続性
金沢大学などの近年の分子人類学・集団遺伝学において、日本人は日本列島への到達(約4万年前の旧石器時代)から縄文時代を経て現代日本人に至るまで、独自の「東ユーラシア基層集団」としての遺伝的特徴(固有ゲノム)は、激しい断絶を起こすことなく色濃く受け継がれている。すなわち日本人の遺伝子は4万年間連続していることが明らかになっている。
2)日本人の4万年の「宇宙と一体の生活」
日本人はもともと縄文の昔から、大自然の息吹の中に神々を見出し、宇宙と和楽する家族生活・社会生活を営んできた。「サザエさん」家のような、おじいちゃん、おばあちゃん、娘夫婦(または息子夫婦)、孫たちが一緒に暮らす三世代家族が日本の家族の原形である。旧石器時代を含む実に4万年もの間、我々の祖先の伝統的な家族は宇宙のエネルギーと完全に一体化していたのである。
3)「宇宙との関係」を破壊してきた外圧の歴史
この強靭にして温かな精神世界・家族生活は、2300年前の「弥生人」の渡来、1800年前の「大和人」の渡来、200年前の「欧米人」の渡来によって、徐々に侵食され破壊されてきた。そして、80年前(1945年)の「GHQ」という最大の外圧の渡来によって、ついにトドメを刺された。
4)中江藤樹に関する歴史の消去工作
墨塗り教科書(1945年〜1946年): 文部省による修身、日本歴史、地理の教科書の授業停止、および「中江藤樹(近江聖人)」をはじめとする日本の偉人・徳行に関する記述の削除命令。
88箇所から0箇所へ: 戦前の『尋常小学修身書』等において、中江藤樹の「大孝」「孝道(徳の根本)」の逸話は広く掲載されていた。しかし、日本人の愛国心を警戒したGHQおよび戦後利得者たちによる学習指導要領の度重なる変更により、封建的抑圧を排する教育改革という建前のもと、小・中学校の教科書からその主たる記述が一時完全に姿を消した。
民間芸能(浪曲・講談)の検閲: GHQの民間情報教育局(CIE)による「封建的・軍国主義的復讐を美化する物語」の禁止措置。これにより江戸時代から続いていた中江藤樹を描いた演目が上演自粛・制限に追い込まれた。
5)団塊の世代の悲劇
とくに、生まれながらにGHQから洗脳された団塊の世代が結婚適齢期を迎えた1970年代、彼らは家族と同居することを拒否し、新婚夫婦だけで核家族を作っていった。すなわち4万年にわたる伝統の家族(三世代家族)を破壊していった。ここに至って日本人は神や宇宙との伝統の繋がりを完全に断絶し、自滅の道を突き進み出した。そしていま、団塊の世代をはじめとする我々日本人が直面しているのは、深刻な家族崩壊、故郷喪失、夫婦別居や離婚、無縁社会の闇、孤独と絶望、介護問題、増税、物価高、ワクチン被害、企業の所有権喪失、資源の所有権喪失、貧困化、孤独死などの悲劇である。
6)戦勝国が敗戦国を徹底的に搾取し弱体化するのは歴史の必然
この地獄絵図の根本原因は、GHQと戦後体制が国を挙げて組織的に行ってきた「日本精神の破壊工作」にある。すなわちウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(WGIP)をはじめとする日本民族弱体化政策である。しかし、米国などの戦勝国が、敗戦国を徹底的に搾取し、二度と牙をむけないよう徹底的に弱体化するのは、歴史のリアリズムである。世界中どこでも当然のことなのだ。
7)問題なのは日本人自身
問題なのは、日本人自身がその欺瞞に蓋をして自滅の道を突き進んでいることである。日本のメディアが「個の自由」というインチキのプロパガンダを垂れ流しているのは、戦勝国である米国とそれに追従する戦後利得者が日本弱体化のためにやっていることだから、いわば当然のことだ。問題なのは日本人が自らそれに乗って浮かれていることだ。あるいはそれに乗って浮かれようとしていることに問題がある。
8)完全に弱体化した日本人
彼らの日本民族弱体化政策の最大の核心こそが、「日本の伝統的家族(三世代家族)の破壊」である。日本民族は家族がバラバラに解体され、必然的に故郷も破壊され、個人個人のつながりも断たれ、孤立し、大地から断ち切られた浮草のように弱体化したのだ。
9)日本民族の現在の立ち位置
かつて内村鑑三が烈火のごとき信仰心で時代の欺瞞を撃ち、小林秀雄が歴史の「骨」を噛み砕くように魂の連続性を凝視し、渡部昇一が恐れず戦後利得者の嘘を暴いたように、我々もまた、戦後メディアの洗脳を剥ぎ取り、隠蔽された真実に直面しなければならない。
【出典・参考一覧】
中江藤樹: 『翁問答』(日本思想大系『中江藤樹』岩波書店)
※「孝は天天地地(てんてんちち)の太根(たいこん)にして、人間の諸徳の源なり」という藤樹の宇宙倫理の根底を参考としています。
内村鑑三: 『代表的日本人』(岩波文庫、または「中江藤樹」の章)
※藤樹を「最高高潔の士」として世界に紹介し、その「天」への絶対信従を読み解いた視点を参考としています。
小林秀雄: 『作家の顔』所収「当業者の言葉」、および『考えるヒント』(文春文庫)
※「偶然の恋愛」と「選べない必然(宿命)」を対比し、必然を受け入れる覚悟を説いた直観を参考としています。
渡部昇一: 『文科の時代』『日本文明の核心』(ビジネス社)
※文明の本質は「縦の線の継承」にあり、個人の快楽(横の線)が優位になったときに文明は衰退に向かうという史観を参考としています。
登場する思想家たち
中江藤樹(1608〜1648) 縄文時代以来の「宇宙の理」を解明し、万物の根源への感謝である「孝」と人間の内なる良心(良知)に従う「知行合一」を思想の核心とした。日本陽明学の開祖。後世に「近江聖人」と仰がれた。私塾「藤樹書院」を開き、身分の隔てなく農民や馬子まで教え育てた。宇宙の絶対秩序である「孝(魂の縦軸)」を解明し、実践した。日本人の精神的背骨を築いた先駆者。
内村鑑三(1861〜1930) 明治・大正期のキリスト教思想家。政治の混乱は国民の内面の混乱の表面化にすぎず、日本国民が地上の国家権力やグローバリズムよりも上位にある普遍的価値(神・宇宙)に繋がらなければならないを提唱。独自の「無教会主義」を唱え、国家や世俗の権威に屈せず、宇宙の絶対道徳(神)の前に一人立つ精神を貫いた。著書『代表的日本人』の筆頭に中江藤樹を挙げ、その宇宙倫理を絶賛した。
小林秀雄(1902〜1983) 昭和を代表する文芸批評家。近代的な自我や合理主義の欺瞞を排し、人間が「選ぶことのできない宿命(必然)」のなかにこそ、真実の生と不動の魂の力が宿ると見抜いた。戦中・戦後を通して「流行のイデオロギーや社会制度の変革(外側の出来事)に熱狂する知識人」を痛烈に批判し、常に人間の「宿命」や「内なる美(魂の調律)」を見つめ直すことを求めた。比類なき直観の思想家。
渡部昇一(1930〜2017) 英語学者、高名な評論家。保守知性のリアリズムから、歴史や言語、文明の本質は「祖先から子孫へ」という「縦の継承」によってのみ維持されることを提唱。戦後の個人主義・快楽主義による文明の衰退を警告した。また占領政策(WGIP)によって植え付けられた自虐史観を利用して利益を得る「戦後利得者」の存在を告発した。著書『戦後解体』『戦後利得者たちの戦後体制』等。
