歳時記余話

 

問い

医療とは?

 

 

歳時記 2月23日

雨水/土脉潤起(うすい/つちのしょううるおいおこる) 雪から温かな春の雨に変わり、寒さで固くなっていた大地が潤い、眠っていた生命が目覚める頃。「脉」は「脈」の旧字体で、血管の脈などの内部の巡りを表す。水上治の医療のように、目に見えない地中の循環と、それに伴う生命の息吹がはじまる。

 

 

答え(名言) 水上治

医療とは、症状の消失だけではなく、人間そのものに寄り添う営みである。(丸ごと医療の精神)

 

 

 

実話のリアリティ

(水上治は、38歳から4年間、北海道のえりも町の診療所に勤務した。シュバイツァー博士に憧れ、「医者たるもの、恵まれた大都会にいるばかりではなく、何年かは地域医療に奉仕すべき」との考えに基づいた取り組みである。以下、水上の講演の一部抜粋)

 

襟裳では始終、患者の住まいに往診をしていました。お茶菓子でもつまみながら、本当にいろいろな話ができます。患者さんの医療に関連する話を聞けます。いろいろ謎も解けます。今でも往診しなければいけないとなると、私は喜んで行きます。家族や暮らしなどを含めた患者さんの背景を見ないで、医療をするのは難しいと思うからです。

 

大病院の勤務医は病院に家族を呼んで、断片的な情報をたよりに深刻な話をします。このままだと容態が厳しい。この後、どの程度の医療をするか。胃瘻(いろう)をするか。高カロリー点滴をするか。そういったことを相談します。あまり背景がわからない中で、決めなければならないのですが、一回でも往診していたら、かなりのことがわかります。

 

「ああ、この家族はこういうことを大事に暮らしているのか」「親の医療に関してキーパーソンは、この人なのか」「どうも息子さんは機能していない。お嫁さんがコントロールしているのだな」といったことがすべてわかります。

 

余談ですが、昔は姑が嫁をいびっていましたが、最近では同居している場合、お姑さんはお嫁さんに遠慮していることもあります。そういう病院では絶対に言わないようなことも、往診すればわかります。でも病院に来ると、患者も家族も模範生としてふるまうから、なかなか本音が見えません。

 

襟裳の診療所での体験は、患者さんと丸ごとお付き合いする、普段の暮らしやご家族、お仕事などの背景も含めてトータルに診るべきという、私の医療観の原点になっています。

 

襟裳の診療所で四年働いて東京へ帰ることになった時、数百人もの方が見送りにきてくれました。びっくりしました。一人ひとり握手しました。一時間ぐらいかかったかもしれません。車で出る時も動けないぐらいで、連絡船のようにテープを握って名残を惜しんでいただいた。皆さんに慕っていただいた体験が私の医療の原点にあります。

(『水上治講演録』より)

 

 

 

現代AI社会への応用

AIは病名を診断できる。症状を分類し、予測し、データ化することもできる。だが、「海が怖い」という言葉の震えを聴くことはできない。だからこそ、医療も、家庭も、社会も、人間が人間の生の声を聴き、丸ごと抱きしめてあげることがますます重要になる。——―水上治の医療の姿勢は、そのままAI時代の倫理基準になるに違いない。(『医療AIに関する国際的倫理指針における「人間中心性」の整理』より)

 

 

哲学の核心

水上治の「日本型医療」とは、病名のある疾患の治療を超え、患者を日本人の本来のいのちの姿に戻す医療である。それは「生きる力」「生命力」を呼び戻し、縄文時代の自然への畏敬、旬の食、共同体の生活への回帰となる。「丸ごと医療」はその日本型医療の実践法であり、自然治癒力、生活、精神、食の4層を統合し、患者の生活全体を包み込む。(水上治『日本人に合ったがん医療を求めて』)

 

 

人物の概略 水上 治(みずかみ おさむ)
医学博士、米国公衆衛生学博士。「日本人に合ったがん医療」「統合医療」「食事療法」「日本型医療」などの概念を先駆的に提唱。患者の生活全体の理解に努める「丸ごと医療」の概念は多くの医師に大きな影響を与えている。

医学界で世界最高峰の国際オーソモレキュラー医学会で「名誉の殿堂入り」を果たしている。1948年2月23日生まれ、健康増進クリニック名誉院長、元日本オーソモレキュラー医学会理事長、主著:『日本人に合ったがん医療を求めて』、『がんで死なない最強の方法』、『健康を創る』

 

 

 

 

 

(次回は2月26日です。)