19-080『永遠の0』百田尚樹/講談社文庫
★★★どこかで見た手法である。例えば、宮部久蔵の姿を、約10人の元従軍者の話を繋ぎ合わせることで再現する。これは芥川龍之介の『藪の中』がその典型である。浅田次郎『壬生義士伝』でも用いられているが、まあミステリー小説や映画にはよくある。特攻に志願するかと訊かれ、全員がyesでなかったというのも、島尾敏雄の小説で既読の内容。
なにより、この小説の欠点は登場人物のセリフが陳腐なこと、安っぽい少年少女向けの読み物のようでもあるし、久蔵の出てこない21世紀パーツがつまらないことである。20世紀場面で死の恐怖、あるいは理不尽な上官の命令と向き合っている兵士たちに比べ、孫世代が司法試験が云々だのプロポーズされただの、やたらに軽い。要は不完全な小説なのである。
しかし、【面白かった】【感動した】【生きる勇気が沸いてきた】と、ひねくれたくそ意地の悪い、この中年読者に思わせている。愚生がこの文庫本の頁をめくる速さは司馬遼太郎の本並みだった。つまり一気読みである。なるほど、これなら売れるはずだ。やるじゃないか、百田尚樹。