「わが子の障害を受け入れられない」(コメント返信) | 自閉症児の医療と療育のエビデンス情報

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質問をくださった方ありがとうございました。

Aさんからいただいたコメントの返信です。

(一部加筆修正しています)

 

 

いつもブログを拝見しております。
知的障害を伴う自閉症の息子(もうすぐ3歳)がいます。
障害者を差別する気持ちは今も昔もありません。本人もご家族も大変な苦労をされていることを尊敬しています。
でも、うちの子が障害児ということがどうしても嫌なのです。受け入れられないのです。
治らないのが障害とわかっていても、治したいと思って模索してしまいます。
つみきの会や楡の会などの体験談を読むと、まるで障害が治ったように書いてあることがあります。
藤中先生はこういった一度は知的障害と診断されたが、その後定型として就学したという少数の子は、療育の成果だと思われますか?
それこそが先生の研究のテーマのようですが…
私はそういう子は年中未満の頃に何か特性があっただけで、そもそも障害児ではなかった(=療育を受けなくても普通に追いついた)のではと思えてならないのです。
通っている児童発達支援センターの卒園児(全員発達検査を受けて通所受給者証を取得しています。皆が手帳を持っているわけではありません。)は半数が普通学級に行くそうです。(自発の相談員の先生は「子供の10人に1人はなんらかの特性がある」と話していました)
なのに信頼するABAの先生のお子さまは支援学校に行きました。
療育を受けても、息子が一生支援を受けて生きていくしかないのであれば、はっきり言ってもう投げ出してしまいたい気持ちがあります。
日々の親子登園をやめて保育園に全部任せ、偏食に合わせて好きなものだけ食べさせ、消すと泣き喚くテレビを好きなだけ見させて、課題やご褒美を取り入れずただただ楽しく遊んであげたい気分です。できませんが…
息子のことは大好きです。大好きだから障害が誤診であってほしいのです。定型になったほうのグループに入りたいのです。
療育沼に疲れてか、なんだか支離滅裂な文章ですが、いつか先生のご意見を聞きたいです。
よろしくお願いいたします。

 

 

コメントをありがとうございます。
とても正直なお話だと感じました。

私の過去ブログ記事(35)に書いたことですが、

 

 

幼児期に、『議論の余地もないくらい明確に』ASDの基準を満たしていたが、

青年期・成人期にASDの特徴を示さなくなった個人が、約9%と確認された


私はこれは、かなり確かな論文だと「思っています」。
この9%が、療育の効果なのがどうかは、じつは、はっきりとは、分かっていません。

成長されてASDの診断からはずれた方について、
それはもともと、ASDではなかったのではないか、最初の診断が違っていたのではないか、ということは、
多くの方が感じられていることで、
そういう場合もあるだろうと私も思っています。
ただ、それだけでもない、ということです。
ただこれは、9%、という、確率のこと、なんですね。
親からみたら、自分の子どものことを、確率で話されても、困ることなんです。

適切な療育を、十分な時間受けても、「IQの数値は」伸びない子どもさんがいることも確かです。

Lovaasの論文(1987)から、今日に至るまで、

その子の「IQの数値を伸ばすために」療育の効果があるかどうかは、やってみなければ分からない面もあります。

 

 

でも

IQがすべてでしょうか。
私は、すべての子どもさんに、将来、幸せに生きていって欲しい、と思っています。

幸せに生きるために、本当に必要なものは何でしょうか。
ABA療育を受けた自閉症のお子さんたちが、成人して、幸せに生きているのか、本当のことが知りたい、と思いました。

IQが伸びなかったとしても、長期的にみれば、何かが違っているのではないか、それを確かめたいと思いました。
それで、自分で研究を立ち上げました。

 

    
国立病院機構 EBM・ネットワーク共同研究
「自閉スペクトラム症小児への応用行動分析(ABA)早期療育と、2~3年後の予後の関係を明らかに する多施設共同・前向き観察研究(R6-EBM(精神)-01)」

 

 

 


と、ここまで書いてきたのですが、
Aさんがとても正直に書いてくださったので、私も腹を割って書きます。
 

うちの子が障害児ということがどうしても嫌なのです。

受け入れられないのです。

治らないのが障害とわかっていても、治したいと思って模索してしまいます。

大好きだから障害が誤診であってほしいのです。

定型になったほうのグループに入りたいのです。

 

正しいとか正しくないとかではなく、
その思いこそが希望になって、強いエネルギーで、親を支えます
その期間は、短い人も、長い人も、いるだろうと思います。

 

 

一つ、過去の論文をご紹介します。 *1 *2(日本語抄録)

1999年、伝統ある医学雑誌(NEJM)に掲載されています、

 

自閉症のある一人の3歳児が、慢性の下痢症状の検査のために、セクレチンを静脈投与されたところ、アイコンタクト、注意力、言語能力が、劇的に改善がした、と報告された。それを受けて、60人の自閉症児を対象に、セクレチンのランダム化比較試験を行ったが、結局、セレクチンの有効性は科学的に確認できなかった、というものです。

私が面白いと思ったのは、

多くの親(69%とのことです)は、この研究結果をうけても、

一人でもよくなった子どもがいるなら、セレクチン治療に関心があると答えた、という点です。

 

 

一方で、

「なにがなんでも」自閉症児を治したい(定型にしたい、近づけたい)という、親の強い気持ちは、

「厳しすぎる子育て」に繋がるかもしれない、

そんな懸念を持ちました。

 

「何度同じことを言っても全然改善されない」

「この子のために。この子の幸せのために……」

時には必要以上の叱り方をしてしまい、深く自己嫌悪することも。

私は、礼儀作法は厳しい家庭で育てられました。

行儀の悪さは、何度も怒られることで改善されました。

そんな自分の「成功体験」から、息子にも毎日毎日「顔はお皿の上!」「体を前に倒して!」と繰り返しました。

すると息子は、ときどき食事の席で苦しそうな表情を見せるようになりました。  

 (*3 一部改変しています)

 

自閉症の診断がなかったとしても、

「何度同じことを言っても全然改善されない」子どもさんの場合、

言語理解が「見た目以上に」ゆっくりな可能性があります(分かっているように見える子なんです)。

こういうお子さんを厳しく叱っても、伸びないのです。

 

すべての子どもは、実際の年齢ではなく、それぞれの能力、強み、そしてニーズに基づいて指導を受ける必要があります。

教室のルールを理解する能力がない子どもを、ルールに従わないという理由で叱責したり罰したりするのは、適切ではありません。   *4

 

「子どもを厳しく育てる」というと誤解されやすいのですが、

現代、世界で推奨されるのは「あたたかい」子育てスタイルです。

私の過去ブログ(64)にも書きました。

「あたたかい子育て」というのは、「あまやかし」と同じではないんです。

 

 

「教える」ことは大切で、放任は望ましくありません。

「あたたかい子育て」は、

丁寧に、正しいことを「毅然として教える」ということを含むと思います。

子どもさんを激しく叱ったり、怒鳴ったり、することと同じではありません。

「あたたかい子育て」で、子どもさんは育ってくれます。 *5 *6 

(注 このあたりは、自閉症児に限定した話ではありません)

 

子育てがあたたかいかどうかは、どう評価するの?という疑問がすぐに出てきますが、

親の愛情/温かさの尺度 (PAWS) のような質問紙を使うアンケート評価や、

親の行動の客観的な観察、があります。 *7

 

 

それで、とても興味深い論文を見つけました。

一卵性双生児(MZ)の研究が、ごく最近発表されました *8

MZの二人は、遺伝的に同一、と考えます。

二人にもし何らかの違いがあれば、それは「環境の影響」と考えることができます。

この論文では、MZでも、愛情深い育てられ方をした子どもは、もう一方の子どもよりも、開放性、誠実性、協調性があった、と示しています。

すごいですね。

 

研究者らは双生児の母親の自宅を訪問し、それぞれの子どもについて話している様子を録音した。

訓練を受けた観察者が、母親の温かさと愛情の度合いを評価した。

ということになっているのですが、

そもそも、MZの双子に対して、同じ母親の声のかけ方などが、そこまで大きく違うのかという疑問はあります。

あるとすれば、そもそも、「何らかのほかの原因があって」、そのために、親の子育てが、二人で違っていたのではないか、とも思えます。

 

たとえば、

私がいま思いつくだけでも(あくまで可能性です)

●一卵性双生児でも、二人の出生時体重が違う場合はありうるので、

お母さま無意識のうちに、小さく生まれた子どもに、より、あたたかみを持って育てた

それで、二人の子育てが異なった可能性は、あるかもしれません。

 

あまりにも私の興味が惹かれために、やや脱線しました。

 

 

私のなんとも攻撃的な意見を広い心で受け止めてくださり、また大変参考になるお話ありがとうございます。

私を突き動かしていたのは希望だったのかと、温かい気持ちになりました。
また頑張ろうと思いました。
2歳3歳が親として最も迷走する時期なのかな、就学が近づくともう少し障害受容できるのかな、とも思います。
(それが本人にとって幸せかは自信がないですが)受験生を抱えているとでも思って、小学校まではできることは親として全部やろうと思いました。
あとで「幼児期にもっと手をかければ良かった」と悔やむことも恐怖なので。

 

診断を受けたばかりの母親は「ああやっぱり」と思うと同時に「障害は嫌だ」と感じ、絶望と希望を日々行ったり来たりしていると思います。

そんなお母さん(お父さん)に先生の言葉が届くといいなと思います。


この度は本当にありがとうございました。

 

「わが子の自閉症診断を母親が受容する過程」は、すでに研究されておられる先生が少なからずおられます。

*9 *10 *11

私は、Aさんとのお話の中で、
「自閉症と診断された母親にとって、診断当時、希望があったか、それはどのような希望であったか」も、探ってみたいと思いました。

 

Aさん、

こちらこそ、このたびは本当にありがとうございました。

今後ともよろしくお願いいたします。

 

 

 

 

 

*1.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM199912093412404

 

*2.

 

*3.

 

*4.

 

*5.

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6072567/#:~:text=A%20wide%20range%20of%20parenting,%2C%20&%20Seeman%2C%202002).

 

*6.

さいごに、原出典のPDFファイルのリンクがあります(*8)。

 

*7.

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3383459/#:~:text=The%20current%20study%20used%20these,82).

 

*8.

https://www.apa.org/pubs/journals/releases/amp-amp0001508.pdf

 

*9

https://www.aichi-toho.ac.jp/wp-content/uploads/2016/07/201606004501_04.pdf

 

*10.

https://core.ac.uk/download/pdf/268257486.pdf

 

*11.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/42/2/42_KJ00006852760/_pdf