一度経験すると変わるよ。
私が医者になって3,4年目くらい、1990年代始め頃に、先輩小児科医に言われたことで、
いまでもずっとよく覚えています。
喘息の小児にステロイドを使うか、とか、
インフルエンザに抗菌薬を使うか、とか、
頭部外傷にCTを撮るか、とか、
そんな話だったと思います。
もしかしたら、私が少し偉そうな物言いをして、たしなめられたのかもしれません。
「喘息にステロイドを使わずに」
「インフルエンザに抗菌薬を使わずに」
「頭部外傷にCTを撮らずに」
その時の判断が、当時の医療水準からして、常識的なものであったとしても、
もしその後、患者さんがよくない状態になり、医師が自分の判断を心底悔やんだ経験があれば、
それがたった一度のことでも、次から自分の診療方針が変わるよ、という意味です。
今の私は、こういうことを「前向き」な、望ましい姿勢と感じています。
当時は、小児喘息にはステロイドよりも、まずテオフィリン製剤という時代でしたし、
インフルエンザの迅速診断はできなかったし、
頭部外傷のCT撮影についてのPECARN基準 *1 のようなものもなかったです。
だから、今の時代の方が医師はずいぶん楽、ということでもなくて、
医師は結局、その時々で、一人一人にしっかり向き合い、適切な判断を求められていることに違いありません。
ところで。
私は新潟県内で、中越地震(2004)、また、中越沖地震(2007)を経験しています。
中越地震では、新幹線車両が線路上に脱線し、引き起こされるまで約1か月、横倒しのままでした。
あの頃、東京との往来のために、新潟ー羽田間の飛行機が、運行されたりしました。
中越沖地震では、私の勤務先のある柏崎市で、多くの家屋に被害が出ましたし、
医局の私の部屋は、ものがすべて崩れ落ち、
また病院の建物もかなり壊れて、
入院患者さんたちは、附属看護学校の体育館に移されました。 *2
繰り返す余震で、深夜に看護師さんが「もういやだぁ」と叫んだ声をまだ覚えています。
その数年後、プレハブの診療棟を経て、
今では、病棟は美しい新棟になっています。
何年か、かかって、変わっているのです。
Wikipediaによれば、中越沖地震の際に、約1mの津波が観測されたことになっていますが、 *3
当時、津波があまり強く心配された記憶が私にありません。
地震は怖い、本当に大変だという個人的な経験をしたのですが、
その4年後の東日本大震災で、さらに人生観が変わるほどの衝撃を受けました。
私だけではなく、たくさんの日本の方がそうだと思います。
このたびの能登半島を震源とする地震では、新潟県内でも、揺れが大きく、また、津波警報も出ました。
私たちにとっては、東日本大震災の経験を通じて、地震と津波への恐怖は、いっそう大きなものになっています。
生きていくことの簡単ではない時代に、
経験を忘れずに、一人一人に向き合うことを、大切にしていこうと私は思うようになりました。
辛い経験をしたすべての子どもさんたちの、こころと身体の健康のために、
声をかけていこうと思っています。
*1.
http://jpn-spn.umin.jp/pdf/20190712_tobuCT.pdf
*2.
https://niigata.hosp.go.jp/byouin/pdf/nurse_senka09.pdf
*3.