・・・・・・・っということで、休日の朝は近所の公園の散歩と決まっている。
公園の真ん中に池があり、夏の間はボートに乗れる。
ベンチに座って、池で羽を休める渡り鳥や、鯉や亀をボーっと眺めているのがぼくのお気に入りの時間だ。
その女性と知り合ったのは、その公園だった。
その日も公園のベンチに座って、池を眺めていた。
風上の方からいい香りが流れてきた。
こう見えても、ぼくの鼻はものすごくいい。
ロクシタンのヴァーベナだ、間違いない。
香りの主はトイプードルを連れた、品のいい女性だった。
決して若くはないが、女性の魅力は若さだけじゃない。
カントリー風のプリント柄チュニックドレスに、スキニーデニムパンツ。
ローラ・アシュレイをさりげなく着て似合うのは、それだけの背丈があるからだ。
トイプードルは頭に真っ赤なリボン。
別に会話はなかったが、その日から気になる存在になった。
次の休日も、そのまた次の休日も、同じ時間にその公園のベンチに座った。
その女性と遭えたり遭えなかったり。
けれども、座る位置は決して近付かなかった。
ある日、公園で遊んでいた子供達の方からゴムボールが転がってきた。
拾ってやろうとしたら、彼女も同時にかがみ、鼻と鼻がぶつかってしまった。
鼻と鼻だぜ。
ここで会話が始まらないなんてことは、絶対にあり得ない。
公園の近くに住んでいることが分かった。
ときどき散歩で前を通ることがあったが、豪邸である。
会話は弾み、まったく予想外に親密になっていった。
その日以来、ぼくの頭の中は彼女のことで一杯になってしまった。
・・・・・・・
そしてある夜、ついにぼくは自宅を抜け出して彼女の家の前に立っていた。
生垣に丁度ぼくがすり抜けられるくらいの隙間があり、大胆にもぼくは庭に侵入してしまった。
流石にそれ以上は行動できなかった。
庭の植木の陰に身を隠し、家の中を窺うしかなかった。
どれくらいの時間が過ぎただろう。
ウトウトしていたらしい。
突然目の前の窓が開き、誰かがぼくの方に真っ直ぐ向かってきた。
しまったっ!
だが、ぼくはその場を動けなかった。
ぼくの体は地面に組み敷かれてしまった。
この匂い。
そうだこの匂いは彼女の匂いだ。
ぼくらはお互い抱き合ったまま、芝生の上に倒れこんだ。
そして、ぼくは彼女に覆いかぶさった。
・・・・・・・・・
お分かりと思うが、彼女とはトイプードルのことで、
その女性とは、彼女の飼い主で、
ぼくとは、ご主人様に飼われている犬のことである。