きょう、ご紹介するのは「競作 五十円玉二十枚の謎」(創元推理文庫)

 

   皆さまは、もう20年近くも、納得のいく解決がされていない、とある日常の謎をご存知でしょうか。

   それが、「五十円玉二十枚の謎」です。日常の謎と言っても、まったり系ではなく、論理学的命題です。この謎について、東京創元社がミステリー雑誌に掲載するために解決編を公募したところ、予想をうわまわる回答が寄せられ、「問題編」と「解答編」をあわせたアンソロジー「五十円玉二十枚の謎」が出版されることとなりました。

 

   まず、そもそもの謎はどういうものか。頭の体操になりますので、皆さまも、ぜひ「解答」をお考え下さい。

   

   それは、東京創元社の戸川編集長が若手作家さんたちを集めて歓談していた席上、出題されたものです。

   出題者は若竹七海さん。話は若竹さんが大学1年生のときの実体験です。池袋駅前の大書店(芳林堂であったであろうことが判明しています)で15時から18時までアルバイトしていた若竹さんは、不思議な経験をします。それは、土曜日の夕方。若竹さんがレジに立っていると、中年男がひとり、急ぎ足でレジ前にやってきて、硬貨をポケットからつかみだすと、カウンターの上におきました。そして、これを千円札に両替してほしいというような意味のことを言いました。硬貨はすべて五十円玉で、二十枚ありました。若竹さんが千円札と両替すると、男は紙幣をひったくるようにして受け取り、大急ぎで書店からでていってしまいました。

  これ一度だけなら、さして問題もないでしょう。

  ところが、男は毎週、土曜日の夕方になると店にやってきて、五十円玉二十枚の両替を頼むのです。これは、あまり普通のこととは言えません。

  若竹さんは都合により、アルバイトをやめてしまいましたが、この一件は心に残っていました。

  謎のポイントはふたつ。

  ①なぜ毎週土曜日に本屋で五十円玉二十枚を千円札に両替するのか(当時は銀行も土曜日営業していた)

  ②なぜ、毎週、二十枚の五十円玉が男のもとに集まるのか

 

  この謎は歓談していた作家さんたちの興味を引き、解決編を競作するとともに、一般からも公募しようという話になりました。

  そして出来上がった「競作 五十円玉二十枚の謎」

  

  まず「一般」からの解答者で「若竹賞」にえらばれた佐々木淳さん。

  ミステリーアンソロジー「鮎川哲也と13の謎」を手にした”僕”はそこに載った公募をみて興奮し、先輩のもとを訪れます。そして、示したのが「五十円玉二十枚の謎」。「不思議でしょう?」という問いかけに、先輩は少し考え、そしてある「一文」をてがかりに、するすると謎を解いてしまったのでした。男が「五十円玉」を手放そうとした行動に隠された意味を。先輩の名は猫丸さん。

   そう、佐々木淳さんとは、倉知淳さん。この作品は、非公式にですが名探偵「猫丸先輩」のデビュー作ということになります。

 

   その他、作家部門からは、法月綸太郎さん、依井貴裕さん、有栖川有栖さん、笠原卓さん、阿部陽一さん、黒崎緑さん、マンガ家のいしいひさいちさん。そうそうたるメンバーです。

 

  法月綸太郎さんの作品は内輪ネタとおふざけと言葉遊びが過ぎるかな、と思われたのですが、それが実は伏線でした。

 

  有栖川有栖さんの作品で登場する名探偵は、江神さんのほう。しっかりと謎に取り組んで、一編の推理小説の秀作に仕上げたところは、さすがに有栖川さんだと思います。若竹さんの体験は、江神シリーズのマドンナ、マリアの体験となっています。ちょっと話はちがいますが、私はやっぱり火村さんより江神さんのほうが好きです。

 

  評価が高かったのが、いしいひさいちさん。

 

  しかし、これほどの作品が集まったにも関わらず、「これこそ決定打だ!」とだれもが納得する解決編は見つかりませんでした。

 

  以来、この謎に挑戦する作家さんは、ときおりミステリー界に現れます。つくられた謎ではなく実話であること、謎が魅力的であることが、作家さんたちのミステリー魂に火をつけるようです。主な作品としては、北村薫さんの「日本硬貨の謎」、かなり謎の内容は変えてありますが、近いところで青崎有吾さんの「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」など。

 

   皆さまも、この謎に挑戦してみませんか?  これだ!という解決を考え付いたら、ミステリー界ではちょっとしたニュースになると思いますよ。