山口芳宏さんの「雲上都市の大冒険」(創元推理文庫)
雲上の楽園と謳われるほど繁栄する四場浦鉱山。そびえたつ高地に開かれた街には、商店や娯楽施設、そして居住地が立ち並びます。
しかし、一歩鉱山に足を踏み入れるとそこは、迷路さながらの世界。そんな鉱山の地下牢に閉じ込められた座吾朗。彼は、昭和7年のある日、「今から20年後に脱獄する」と宣言します。
それから年月が経ち、時代の荒波の中、座吾朗の存在は忘れ去られたかに思われましたが・・・・・・
宣言のちょうど20年後の昭和27年、はたして、座吾朗の姿は牢内から消えていたのでした。
その直後、四場浦鉱山のオーナーが殺されます。オーナーの息子に頼まれて、鉱山に向かう弁護士の殿島。
ところが、鉱山に向かう列車の中で、殿島はふたりの個性的な探偵たちに出会うのでした。眉目秀麗な青年の荒城と、近代的な義手の真野原。ふたりとも、雲上都市に向かうようなのですが・・・・・・
まず、往年の探偵小説をそのまま復刊したかのような、たいへんにノスタルジック、かつ古典的な雰囲気に、一読、引き込まれます。そして、たいへん読みやすい。乱歩の小説を現代的に書き直してくれれば、という願望をかなえてくれたかのようです。
謎はたくさん散りばめられ、推理小説としての楽しみも多い。しかし、推理小説というよりは、探偵小説、しかも2人の探偵と、ひとりのワトソンが、そろいもそろってアクティブなので、もはや、冒険小説といった感じです。タイトルが「大冒険」ですから、看板に偽りはないのですが。
ジャンルとしては、クリスティの「秘密組織」や「七つの時計」のような感じ。残念ながら、クリスティの域には達していないのですが。
それでも、作者はほんとうは推理小説を書きたかったのでしょう。物語を支える一番の謎、座吾朗脱獄の謎ときは、なかなかの大技です。
うれしいのは、ワトソン役の殿島が、優秀なこと。
ロマンスが足りないかな、と思っていたら・・・・・・(ネタバレにつき、以下略)
とにかく、読んでいて、なにか楽しい気分にさせてくれます。細かい謎解きも、細かい、些細なものなのですが、パズルを解いているようで飽きさせません。 荒城の造型に京極夏彦さんへのオマージュを感じるというレビューもありますが、作者が影響を受けた日本人推理作家さんは、海野十三さん、天藤真さんとのこと。
実は、この作品、鮎川哲也賞の受賞作です。それが、文庫化わずか7年後にして、すでに絶版という事実。作者はコンスタントに受賞後作を書いていますし、それらも単行本化されているというのに、です。いったい何が悪かったのでしょう。
ちなみに、この作品の前回の鮎川哲也賞は麻見和史さん。こちらは、「警視庁捜査一課十一係」シリーズで大活躍です。そしてその時の佳作が、似鳥鶏さん。ご活躍ぶりは説明するまでもないと思います。次回の受賞作は七河迦南さん。受賞作「七つの海を照らす星」は有名です。
それなのに、山口芳宏さんのお名前と「雲上都市の大冒険」は、最近、ほんとうに偶然に知りました。図書館で、「本日返却された本」コーナーにあったのです。このコーナーには、なぜかアタリの本があることが多いので、いつも物色しています。
絶版になっていようと、なかなかに面白かったので、次作の「豪華客船エリス号の大冒険」も読むつもりです。タイトルからして、懐古的雰囲気満載でワクワクします。でも、こちらも絶版。しかも、4000円近くしますから、狙いは図書館ですね。
