私の職場のホテルレストランでは
時々それなりの規模の会食なども開かれているのだが
今日は運の悪いことに20人規模の団体がほぼ同時に二つ入っていた。
しかもそのうち一つは誕生日会、一つは葬儀の会食である。
建物の真ん中を真っ直ぐ走る廊下の左右に大広間という構造になっているうちのレストラン。
特に二つの広間の間に仕切りはなく比較的オープンであるため
一方の大広間では人々が楽しそうに酒を飲みながらバースデーソングを歌い
廊下を挟んだ反対側では喪服姿の人々が故人の思い出をひっそりと語り合うという
どちらにとっても不幸な組み合わせになってしまった。
尤も、行事の性質上、葬儀の予約が入るのは通常前々日かせいぜい3~4日前。
前から誕生日会が入っていたところに葬儀の方が重なってしまったのだろう。
という訳で結果的に40食を同時に準備をすることになった私達。
これがセットメニューならライン作業で案外さくさく終わるのだが
運悪く誕生日会の方がオーダー制のパーティだった。
要するにお客が好きなものを銘々で注文できる訳だが
こちらとしてはてんやわんやの大惨事。
あの時のキッチンの大乱闘っぷりに比べれば
だんじり祭りだっておしとやかに見えるレベルである。
そしてここで空気を読まずに颯爽とご登場遊ばしたのが、
あのオーナの孫娘ことアホお嬢様(15歳)だった。
このお嬢様、阿鼻叫喚のキッチンを一目見て
「あ、今は忙しいんだな・・・」
などとしおらしいことを当然思うはずもなく
ウェイトレス達が走り回る狭い通路の入口に気だるげにもたれかかり、
「ねぇ伯母さん、今から買い物に行きたいんだけど、付き合ってよ」
とのたまった。
今!?
この「叔母さん」はお嬢様の母親の姉であり、つまりオーナーの長女である。
普段はのんびりとした彼女も流石に付き合いきれないと思ったらしく
「無理に決まってるじゃない、忙しいのよ。」
とやんわり切り捨てたのだが、そんなことで引き下がるお嬢様ではない。
「だって、私のお気に入りのカチューシャ壊れちゃったんだもん!
今から代わりに新しいのを買いに行くんだから、隣町まで連れて行ってよ。」
と修羅場のようなキッチンのど真ん中で子供のようにごねる。
しかし本気でそれどころではない叔母。
「知りませんよそんなこと。」
とばっさり姪っ子を切り捨て、ウェイトレス達に指示を飛ばす。
それが不満だったのか、ふくれっ面をしたお嬢様、今度は
「もういい!!あたし帰るからね!!!!」
と言って気を引こうとするのだが、キッチン中の人間が彼女を無視。
いや、別に無視している訳ではないのだが
それぞれが超高速で手と頭を動かし、指示を飛ばし、注文を確認し、在庫を確認し、
とにかくこのアホの子の相手を出来るほど余裕がある人間など皆無。
それを見たお嬢様は本気でイラついたらしく
「あたし帰るって言ってるでしょ!!!良いの?!ほんとに帰るからね!?」
と叫び、そこでようやく料理長が彼女が何か喚いていたことに気付いたらしく
「はい、サヨウナラ。」
と返答。
プライドを傷つけられたお嬢様は何やら悪態をつきながらキッチンから出て行った。
こんな人間、ドラマの中以外にもちゃんと実在するんやな・・・・・。
と、ひたすらメロンの飾り切りをしながら思った午後のひと時だった。