今日は肛門癌について解説したいと思います。
あまり一般の方には知られていない癌のようです↓
肛門がん?
— macaron (@fraisst) August 25, 2025
聞いたこと無いんだけど?
9価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの効能効果に
肛門がんの予防を追加
接種対象を男性にも広げる
対象は9歳以上で
接種回数は15歳未満で2回
15歳以上で3回
自費での任意接種となるが
健康被害が出た場合は救済の対象となる pic.twitter.com/nv2D2g60pR
頻度は確かに低いかもしれません。
でも肛門科医として、あるいは皮膚科医として30年間で多数の症例を診断してきました。
肛門にできる「がん」の主な種類
日常的に「肛門がん」と呼んでいても、実際にはいくつか病理学的に違うタイプがあります。
肛門管扁平上皮がん(肛門がんの代表)
・肛門管の皮膚〜粘膜移行部あたりにできるがん
・肺がんでいう「扁平上皮がん」と同じ系統の上皮性悪性腫瘍
・多くが HPV(特に16型など) 関連
肛門管腺がん
・直腸がんが下に降りてきたようなタイプ(直腸腺がんと区別が難しいことも)
・大腸がんの仲間と考えた方がイメージしやすいです
肛門周囲の皮膚がん
・肛門周囲皮膚にできる 基底細胞がん・有棘細胞がん・悪性黒色腫 など
・場所が肛門なだけで、扱いとしては皮膚がん
肛門周囲Paget病 などの特殊なもの
表皮内に腫瘍細胞が広がるタイプで、痒み・湿疹様で長く見逃されがち
主な原因・リスク因子
肛門にできるがん全体の中でも特に肛門扁平上皮がんには特徴的なリスクがあります。
HPV感染(特に16型など)
子宮頸がんと同様、ハイリスク型HPVが関与
肛門性交歴
性的に活動性の高い層でリスク増
HIV感染
免疫低下によりHPV関連病変のリスク増大
長期の免疫抑制状態
臓器移植後、免疫抑制薬内服など
慢性炎症・長期に続く肛門疾患
長年治らない難治性の裂肛・瘻孔・潰瘍などから、まれに癌化するケース
喫煙
HPV関連がん全般のリスクを底上げ
よくある症状
痔と本当に紛らわしいのが肛門がんの厄介なところです。
・出血(排便時・便に付く・ティッシュに付く)
・肛門のしこり(「いぼ痔かな?」と本人も医師も思いやすい)
・痛み・違和感・肛門の圧迫感
・肛門周囲のただれ・びらん・湿疹のような皮膚変化
・分泌物(粘液・膿様)
進行すると:
・排便時の強い痛み、狭窄感
・鼠径リンパ節の腫れ
ポイント
「長引く痔」「治療しても何ヶ月も良くならない肛門のキズ・ただれ、かゆみ、湿疹」は要精査です。
診断の流れ(ざっくり)
視診・触診・肛門鏡
直視での観察+指診+肛門鏡観察
生検(組織検査)
検査の決め手。少し組織を採って病理診断
範囲評価・転移のチェック
・直腸〜肛門の詳細評価:直腸鏡、内視鏡
・CT / MRI / PET-CT などでリンパ節・遠隔転移の有無を確認
ステージと転移
・肛門扁平上皮がんは、鼠径リンパ節転移が比較的多いのが特徴
・そのほか、骨盤内リンパ節、遠隔臓器(肝・肺など)へも進行すると転移する
治療の基本
肛門がんの中でも扁平上皮がんと腺がんでは治療方針がやや異なります。
肛門扁平上皮がん
標準的には 化学放射線療法(CRT) が第一選択
(5-FU+シスプラチン or カペシタビン+放射線 などのレジメン)
目的:
がんを根治させつつ、できる限り 肛門括約筋を温存 して人工肛門を避けること
再発・残存の場合:
腫瘍切除や腹会陰式直腸切断術(APR)で肛門を含めた摘出+永久人工肛門となることも
肛門管腺がん・直腸由来が疑われるもの
・直腸がんと同様に 外科的切除+場合によって放射線・化学療法
・肛門温存が難しいことも多く、APRが選択されることもある
肛門周囲皮膚がん・悪性黒色腫など
・原則は 外科切除(マージンを確保)
・病型に応じて、免疫チェックポイント阻害薬・分子標的薬など
予後
・早期発見なら予後良好
・肛門扁平上皮がんでは、ステージI〜IIで5年生存率は比較的高いとされています。
・進行例・遠隔転移例では予後は低下
ただし最近は化学療法・放射線技術の進歩、免疫療法などで選択肢が増加。
予防・早期発見のポイント
・HPVワクチン(私は推奨しません)
・ハイリスク群(HIV陽性、男性間性交渉者など)では定期的な肛門診察・肛門鏡検査、必要に応じて肛門細胞診(いわゆる肛門版パップテスト)
・「痔がなかなか治らない」「前と違うタイプの痛み・しこりが出てきた」時は放置せず専門医受診
HPV(ヒトパピローマウイルス)には200種類以上のタイプがあって、その中で癌を引き起こす可能性が高いタイプがいくつかあります。
そのハイリスクなタイプのウイルスに対するワクチンがHPVワクチンなのですが、すべてのウイルスを網羅できません。
つまり外れたらワクチンを接種していても癌が発生するということ。
それにHPVと関連するのは肛門扁平上皮癌だけ。
それ以外の癌はHPVとは関係がありません。
だから肛門扁平上皮癌だけを狙ってHPVワクチンを接種するメリットよりも、HPVワクチンのリスクのほうが私は大きいと考えています。
肛門科医として「肛門扁平上皮がんが心配ならHPVワクチンを打って下さい」とは私は言いません。
肛門癌について「臨床消化器内科」という雑誌VOL.39 NO.4 2024「特集 内科医が知っておくべき、肛門疾患の基礎知識」に肛門癌について寄稿していますので是非ご覧下さい。
症例写真も豊富に掲載されています。
また日本大腸肛門病学会のホームページ、市民向けの病気解説のページも担当しており「怖いかゆみ」として肛門癌や皮膚癌の症例写真を掲載しています。
こちらの記事も是非お読み頂きたい↓
癌は痛くないのです。
大きくなってきて周囲の組織を圧迫するようになって初めて痛みを生じるため、気付かれにくいです。
ましてや肛門は自分で確認することが難しい場所。
だから少しでもおかしいなと思うことがあれば肛門科を受診しましょう。
肛門科に抵抗がある方は消化器内科を受診し、大腸内視鏡検査を受けることをオススメしたい。
痔瘻癌をはじめ肛門癌は他の癌に比べると予後が良い印象です。
もちろん早期発見した場合ですが・・・。
また扁平上皮がんに関しては肛門性交との関連のある症例が多かったです。
過度に怖れてHPVワクチンに走るのもどうかと思いますね。
心配なら肛門科を受診して下さいとオススメするのですが、専門の先生に診てもらって下さいね。
私が診断した肛門に発生した癌の多くが他院での見落としです。
ほぼ全例が専門外の医師でした。
医師免許さえ持っていれば誰でも肛門科の看板を掲げることができるので、肛門に関する専門的な知識や臨床経験がなくてもクリニックの看板に書けます。
ちゃんと医師の経歴を確かめて専門の先生にかかりましょう。
専門の先生の見分け方はこちらの記事に詳しく書いています↓
日本の肛門科の歴史と現状~専門の医師を見分ける~
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