それに、日本はサンフランシスコ平和条約によって完全な独立国家として認められていない。日本政府が持っているのは「施政権」(自治権あるいは潜在的主権)であって、本当の「主権」ではない。さらに、安全保障をほぼアメリカに委ねている以上、自己決定権などないと言っていいのだ。
■岸田前政権GDP比2%をやっと決めたばかり
事の発端は、3月4日、エルブリッジ・コルビー国防次官が、人事承認に向けた上院軍事委員会の公聴会の準備書面で、日本に対し防衛支出をGDP比で3%超に引き上げるように要求したこと。現在のGDP比2%に対しては、「不十分」という見解が提示されたのである。
彼は、以前からこのことを何度も指摘しており、トランプ政権で国防省ナンバー3になった以上、こうした要求がくるのは予想できたことだ。しかし、石破政権はまったく準備ができていなかった。
なにしろ、岸田前政権が、やっとのことでGDP比2%を決定したが、その財源手当てはまだできていない。そんな状況で、その先を考える余裕などまったくなかったからだ。
■なぜコルビーは相手として“強敵”なのか
コルビーは国防省のナンバー3の次官とはいえ、今回の要求は、国防省全体、いや彼のビッグボスであるトランプ本人の意向だ。
国防省のナンバー1の国防長官は、元FOXニュースのキャスター、ピート・ヘグセス。ナンバー2の国防副長官は、プライベートエクイティー投資会社のトップ、スティーブン・ファインバーグ。2人とも、軍事はまったくの専門外。
よって、国防戦略はコルビー1人に委ねられていると言っても過言ではない。
しかも、彼は第1次トランプ政権で国防次官補代理を務め、トランプに対し、中国封じ込めのために、日本、韓国、台湾の国防費増強を進言した人間である。
さらに、彼は、日本を熟知している。というのは、1986年から7年間、6歳から13歳の間、父の仕事の関係で日本で過ごしているからだ。西町インター、ASIJ(アメリカンスクール・イン・ジャパン)のエレメンタリースクール、ミドルスクールに通い、日本人の友人もいる。日本の交渉相手としては“強敵”と言っていい。
■トランプの“脅迫”で「思いやり予算」増額
今回の防衛費増強要求で想起されるのは、第1次トランプ政権で、大統領補佐官を務めたジョン・ボルトンの回顧録である。
2020年に出版された「The Room Where It Happened : A White House Memoir」(邦題『ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日』)で、彼は、トランプが日本政府に在日米軍の駐留経費として年80億ドル(約8400億円、当時のレートのドル円105円で換算)を要求し、それが受け入れない場合は在日米軍の削減を口にしていたと述べている。
トランプ得意の“脅迫外交”である。
この要求は、バイデン政権でも引き継がれ、日本政府は2021年12月、2022年から2026年の日本側負担額を年平均約100億円増の2110億円、5年間の総額1兆551億円にすることで合意した。
ちなみに、在日米軍の駐留経費の日本側負担は「思いやり予算」(正確には「在日米軍関係経費」)と言われ、防衛費とは別にされている。思いやり予算とは別に、基地周辺対策費・施設の借料、米軍再編関係費(鹿児島県西之表市への基地移転費用など)も、日本政府は計上しており、すべてを含めて総額は実質1兆円を超える。
■防衛費増額の財源などどこにもない
以上のことから、今回もまたアメリカの要求を飲まざるを得ないと思われる。
ただし、それには大きなハードルがある。
言うまでもなく、最大の問題は財源がないことだ。すでに決まったGDP比2%は、2023年度〜2027年度の防衛費の総額を43兆円とすることだが、いまだに財源が明確に定められていない。
税外収入、決算剰余金、歳出改革でまかなうとされたが、それでは足りない。そのため、法人税、たばこ税、所得税を増額するとしたものの、その実施時期の決定は先送りされてきた。
今年度の与党税制改正大綱で、ようやく法人税とたばこ税の増税時期が2026年4月と定められたが、所得税に関しては、またも先送りされてしまった。
こんな状況で、GDP比3%をどうやって捻出できるのだろうか?
■今年度はGDP比2.0%も怪しい1.31%
今年度の予算は、先日、与野党協議の末やっと成立した。一般会計総額115兆1978億円で、このうち、防衛費は過去最高の8兆7005億円。GDP比にして約1.6%である。2%に達していない。
さらに悪いことに、この約1.6%すら怪しくなっている。というのは、日本経済が成長していないからである。IMFのデータだと、2024年の日本のGDPは4兆2861億ドル(約663兆円、ドル円150円換算)で、今年度も同じと仮定すれば、8兆7005億円の防衛費はGDP比1.31%にしかならない。
ちなみに、防衛費といっても、人件費、食料費、教育訓練費、装備の維持費などで5割を超え、新規の武器や装備品の購入費は約2割にすぎない。
■必要額は約20兆円、消費税減税など夢のまた夢
今年度の予算案審議では、「103万円の壁」「高校教育無償化」などが与野党間の駆け引き材料となり、いずれも財源の手当が問題になった。たとえば、103万円の壁を178万円に引き上げた場合、税収が7.6兆円減るとされた。
そこで、防衛費GDP比3%を試算してみると、GDPを約660兆円とすれば、3%は約20兆円になる。103万円の壁を178万円に引き上げることすらできないのに、どこにそんな財源があるというのか。
野党はおしなべて消費税の減額、廃止を要求しているが、消費税の税収はここ数年約23兆円である。とすれば、GDP比3%実現には、消費税収入のほとんどを注ぎ込まなければならなくなる。消費税減税など、夢のまた夢にすぎなくなる。
■どうやったら財源が捻出できるのか?
GDP比3%実現のもっとも安易な方法は、赤字国債の発行である。しかし、これ以上の財政ファイナンスは、 円の価値を大幅に毀損し、大幅な円安、インフレの亢進を招く。
となると、増税するほかなくなるが、国民負担率46.2%(2025年見通し)の状況で、そんなことをすれば、国民生活が成り立たなくなる。防衛予算増額で守るべき国民を逆に苦しめることになる。
国債と増税が無理筋なら、徹底的な歳出削減を行い、財源を捻出するしかない。たとえば、子ども家庭庁予算は約7兆円だから、これを削る。男女共同参画費用の総額約10兆円を削るなどだ。
もちろん、議員数の削減、議員歳費の減額、公務員のリストラと給料の引き下げ、省庁の縮小再編、独立行政法人の統廃合などで、小さな政府を目指す方法がある。おそらく、これが最善の方法である。しかし、いまの自公政権、また野党が政権をとったとしても、そんなことをするとはとても思えない。
■EUはGDP比3%の合意形成を目指す
3月4日、EUのフォンデアライエン委員長は、ヨーロッパの防衛力を強化するため、最大で8000億ユーロ(約125兆円)規模の資金の投入を目指す計画を発表した。
トランプに「自分の身は自分で守れ」と突き放され、GDP比5%をふっかけられたうえ、ウクライナの現状を見れば仕方がない措置と言える。なによりトランプのアメリカは、信頼できなくなったので、こうするしかない。
現在、EUはGDP2%前後の国が多いが、トランプの圧力を受けて3%まで引き上げることをほぼ決めている。EUのアントニオ・コスタ欧州理事会議長は、今年6月のNATO首脳会議で引き上げの合意形成を目指すと表明している。
EUのなかでもバルト3国は、すでに軍事費増強を進めてきており、エストニアもリトアニアも首相が「トランプ大統領の5%要求を歓迎する」と述べている。
■「楽しい日本」などと言っている状況ではない
はたして、日本はどうすべきなのか?
石破首相が「自分たちで決める」といくら言っても、はたしてそれができるのか? 「日米安保頼み」「アメリカ依存」から脱し、自国で有効な防衛力を保有できるなら、それも可能だろう。
しかし、いまの日本には有力な軍事産業もなければ、軍事技術もない。経済も落ち目で、再建できる可能性も低い。なにより、少子高齢化で防衛のための人員も確保できない。
首相が「楽しい日本」などと“お花畑”話を言っている場合ではない。
ちなみに、日本の周囲では、今年度予算において軍事費が占めるGDP比は、韓国が2.72%、台湾が2.5%である。安全保障に関して、早急に、真剣に議論して結論を出す。これが、いまの日本の最大の政治課題ではなかろうか。
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