子供のころ、漫画を読んでいて、か弱き女性が気絶するシーンで、
「そんなの嘘、優しくされたくて、フリをしてるだけでしょ?」と思いながらも、
そういうことが出来る女性に、おそらく、憧れていた。
わたしは、ストレス過多で、毎週土曜日の夜になると熱を出す子供だった。
共働き家庭で、父は交代勤務なので日祝盆正月まったく関係ない。
やっと明日休み、というときにわたしが毎週熱を出すので、
毎週わたしは母親に怒鳴られた。

熱を出す理由があるんだよ。
それは体由来じゃないんだよ。

誰からも優しくされず、寝ていると怒られ、起きていると怒られ、
わたしの少女期に幸せだった思い出は全く存在しない。

うつ病を発症して、気絶するということが自分の身に起きていることを初めて知った。
最初はわからなかった。
立っていていきなり倒れるとか、ふらふらしてあ~れ~、というのではないからだ。
激しいストレスにさらされたのち、それに耐えて耐えたあと、
気が付くと、時間が飛んでいる、という感じなのだ。
いきなり倒れるのではなく、なんか変…と座るなり横になるなりしているので、

それが睡眠ではなく「気絶」であると、わかるまでだいぶかかった。

診察で、わたしのレポートを読んだドクターが、嘔吐が減っていないことを危惧して、
今のままの治療でいいのかどうか、超音波検査と血液検査の結果で話し合いましょう、と
サバちゃんを預かって行って。
激混みの待合室で小さくなって座っていた。
そうだ、軟便であることも気にしてらしたけど、全ての回、撮影してあるのだから、
写真見せれば良かった、と、すぐに写真を見せられるようにして待った。
 

やがて呼ばれた。
血液検査の結果は、全く、一つも、問題がなかった。
何も悪化していなかった。
腎不全用の薬を飲ませられてないにも関わらず、腎臓も悪化していなかった。
超音波では、3:40に食べたフードは胃にはもうなく、ただ十二指腸の動きがどうしても悪くて、
蠕動運動がうまく働いていない。
吐く理由はそこにある。
今、低グレード用の抗がん剤と、ステロイドでの治療だが、ハイグレード用の薬を挟むかどうか。
通院の頻度が増えてストレスが増えること、若干の副作用は否めないこと。

わたしはそこで、一番新しい便の写真を見せた。

レポートには「軟便」と書いたが、ぱっと見は、もしかしたら普通の硬さかも?と思わせるような「形」があること。
けれどスコップで救うとクタ~っとなってしまう、ホイップくらいの柔らかさであること。
そしたら、先生の顔がパッと明るくなったのが見えた。
「これくらいなら、このお薬を飲んでる子としては、普通です。もっと柔らかいのかと思いました。」
そこで夫が「このままで、継続という選択もありますか?」と尋ねて、
そうしましょう、という方向に決まった。

体重が増えていること、本人の機嫌がよく、食欲も旺盛であること。
ならば、もうしばらくこのままでいきましょう。いい結果が出ないなと悩んでいても、
3か月・4か月たって急に改善する子もいるので、とのことだった。

おそらく、それはもう、科学の範疇を超えている話であろうと思う。

絶対大丈夫。きっと良くなる。
わたしが信じなくて誰が信じるの。

その日は気分も上がって、サバちゃんもワガママを言って、可愛かった。

けれども。
10月からずっとこのような緊張感。
そろそろママにも疲れが見えて来ている。
起こされたら起きてゴハンをあげられるように、睡眠薬を三分の一に減らしてもらったのだが、
サバちゃんが起こさないで遠慮していると、
うっかり9時間も寝てしまうことがあった。
それとも、起こしたけど気が付かなかったのだろうか?

昨日も、目が覚めてもぞもぞしたら、サバちゃんが自分のドームベッドから出て来て、
わたしを舐める。
それが、もう空腹の限界が来ていて、うっくんうっくん、言っているのだ。
わたしは飛び起きて、これは、いきなりフードはダメだと思って、
まず胃を落ち着かせるために、ちゅ~るを与えた。
そして、しばらくしてから、柔らかい缶詰をチョイスして、少しの量を与えた。
そうやってこまめに与えて何とかやり過ごしたかった。

けれど、食べて数分でベッドから飛び出してきて、ラグの上に来た。
ああ、ダメだった…吐くんだ…。
サバちゃんは、吐くときにはどうしてもラグに居たい。
ちびバケツを持って傍に座り、やさしく背中を撫でる。
二回に分けて、吐いてしまった。
 

…わたしのせいだ。わたしのせいで吐かせてしまった。
一昨日吐いたばかりなのにまた吐いた。
空腹すぎるのを我慢させてしまった。

わたしは自分を責めて責めて、泣いた。
サバちゃんはオープンベッドで休んでいた。

一時間しないで、けろっとして、スープを飲むと言ってきたので、

ちゅ~るを溶いた豪華スープを与えた。
そしたら綺麗に飲んで、ドームに入った。

わたしは心配で、ドームを覗く格好でベッドに居て見ていたが、
そこから記憶がなく、
ハッと気づいたら日付が変わってしまっていた。

あ…気絶してた。
まただ…。

実はサバちゃんがガンだとわかってから、こんな風に何度も気絶してる。
出かける日がほとんどなく、誰とも会わないので気が付かれないが、
眠ったのではない。気を失ったのだ。

サバちゃんは、今日はあまり欲しがらない。ステロイドもまだ飲ませられていない。
今、ファンヒーターにあたりに来ている。

夫が来たので、サバちゃん、起こさなくて、空腹過ぎて吐かせてしまった、と泣いたら、
「アラームかけて自分で起きればいいだろ。」と正論を吐いて行った。

だれも優しくしてくれない。
サバちゃん、パパは冷たい人だよ。
ママが手術するときだって「死ぬわけでもないくせに」って言ったような奴だよ。

二人で頑張ろうね。ずっと二人だよ?



2021年12月29日