トイレに満杯の下痢。床に嘔吐。
もちろん、ほんの少ししか食べられない。
どうしよう、と苦しんだ日曜日。
怖い。大丈夫なの? 死なない?
朝になって、その時の様子で決めるしかない。
下痢が止まらず、吐いていれば問答無用の受診、預けることになる。
夫に行けるか尋ねたら、「忙しいけれど行けなくはない。」と、こんな時に忙しい自慢。
退職になって家にいて、娘ちゃん二人の家事すべてをやってあげている夫。
加えて契約社員として二社の仕事を請け負っているのが自慢でしようがないのだ。
この子の命より優先すべきものがあるならそうすればいい。
あなたの命の間際に、わたしは猫のケアを選ぶかもよ、と思う。

嘔吐が、止まった。
スプーンに二杯ずつくらい与えていたが、もっと食べたいと言う。食べられると言う。
缶詰の四分の一を与えたら、食べて、吐かない。

うう、どうしよう。病院に連れていくことはたやすい。
けれど、この子にとって、それは激しいストレスになる。
行かずに済めばそれに越したことはない。

先生は、二つの症状が同時に出ていて二日目になったら、来てくださいと言った。
症状どうこうより、食べれなくなったら来てくださいとも言った。

明け方から朝になり、相変わらず水様便だが、嘔吐は止まって、しきりに食べたがる。
…様子を見よう。
再診料を払わなくて申し訳ないけれど、先生には電話で相談しよう。
この日、抗がん剤を飲む日なのだ。こんなに下痢をしていても飲ませて大丈夫か。
他のお薬は入れられていない状況だけれど、薬の優先順位も聞きたい。
そもそも、今日、受診しない選択でいいのかも聞きたい。

早朝、夫にラインしたら来たので、そのことを話した。もちろんすべてメモになっている。
嘔吐は止まったので、様子見ということに合意が得られた。
そしてそのメモを拡大してFAXしておくよ、というので、いやいや、ちゃんとレポート書くからと。

わたしはサバちゃんのことを、すべて、小さなノートに記録している。何時に何をどれだけ食べたか、いつ排出したか、どのお薬を何時に飲んだか、機嫌は、元気は、食欲は…。
通院のたびにA4サイズの紙にびっしり、様子を分けて書き、下のほうに質問事項を書く。それを受付で渡して先に読んでもらってから診察室に呼んでもらえるようお願いしている。それが効率的だし、先生はカルテに書かなくても詳細なレポートが毎回来るわけだ。
いつもカラーペンを使って書いているが、FAXなので太い目のボールペンで書き、夫にFAXしてもらった。
そしていつもそうするように、8時58分に電話をした。

既にAXを読んでくださっているので答えは早かった。受診しない選択を認めてくださった。
そして、下痢は、急性のものなので、それが半月以上続くなら問題であるけれども、一週間か10日で治まってくれたら、という希望的観測をしている、抗がん剤は、下痢を誘発はしないので、予定通り予定の日に必ず飲ませる、薬の優先順位は、抗がん剤、ステロイドの順で、腎臓の薬は、長期的に見て可能になったら飲めればいい、あまり無理をしなくてもいいということが聞けた。

早速、時間的に遅れていた抗がん剤を缶詰にそっと隠して与えた。
食べてくれた。
吐かないでくれた。

もうそれだけで泣けてくる。
ありがとう、お薬がんばってくれて。ありがとう、食べてくれて。
ありがとう、生きててくれて…。

そしてここから突然、体調はいい方向に急変していった。

下痢が、止まった。
三時間留守にしたら、二つに増やしたトイレ満杯だったのに、ふと、止まった。
吐くことはなくなり、食べたいと言いに来る回数が、徐々に増えて来た。
スプーン二杯だったのを、缶詰四分の一に増やし、三分の一に増やし、恐る恐る様子を伺い…。

やがて、ドームベッドに引きこもって寝てばかりいたのに、ママのストーカーを再開してくれた。
鳴き声も上げるようになってきた。

下痢をしない。
吐かない。
これは、当たり前のことではなくて、本当に本当に、ありがたいことなのだ。
わたしは息子を一人育てたが、彼もよく吐く子であった。
胃腸風邪になった時は、食べたがって食べた直後に立ったまま漏らして、
カーペットも布団もえらいことになった経験もまざまざと思い出した。

わたしはサバちゃんのママなのだ。世話をして当たり前、世話をさせてもらえて幸せなのだ。
こんなに大切でこんなに愛おしいのに、吐いたからと怒ってしまった自分を心から呪う。

今日、12月18日。6日間、吐いていない。下痢も止まっている。
世界で一番かわいい天使の、シッポを捕まえた。
お願い、遠くに行かないで、ママの傍にいて欲しい。
お願いはそれだけだよ。
大事にする。お姫様でも女王さまにでもなっていい。
ただ、生きてて。



2021年12月18日