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 98年から6年間、総合商社伊藤忠商事の社長さんをされていた方の著作。実話だから読んでいて面白いしためになる。アメリカに赴任していた頃のことや、子供の頃や学生時代のことも書かれている。この本を読めば、一流企業の社長さんがとても身近に感じられるかもしれない。2005年2月初版。

 

 

【社長】
 だから、私は偉いとも思われたくないし、かえってそう思われるのも迷惑です。今でも私は電車通勤を続けているし、長いことカローラに乗っていますが、周りからは「社長のくせに」と言われる。しかも社長を退いた後だって、「あの人、伊藤忠の社長だったわりには何かショボクレてるよな」とか「こんなところで酒飲んでるぜ」とかきっと言われたりするんです。余計なお世話です。社長になったって全くいいことないですよ、と私は思っているのですから。(p.24)
 集団のトップにありながら地位や肩書に関係なく生きている人って本物だろう。肩書きに合わせて車を変えるのが当然と思っているような人々は、自分自身の確たる生き方より平均的に無教養な世間の目の方が大切な人なのだから、畢竟するにその程度なのである。
   《参照》   『黄金輝く経営者になる秘伝! 深見所長講演録21』 (菱研) 
             【尊敬される人間性】

 若い頃は、奥様に散髪してもらって虎刈りだったり、長靴通勤だったり、靴下がチンバだったりと、おもしろい話がいっぱい書かれている。

 

 

【LGSというビジネスモデル】
 LGS(Leveraged Growth Strategy) とは別の企業とお互い強い部分を提供しあって成長してゆくモデル。
 その一つが、中国でのビール会社への投資です。今、アサヒビールとの共同出資で、新しい飲料事業を中国で始めています。滑り出しはきわめて好調です。朝日ビールはいうまでもなく製造技術を、そして伊藤忠は中国とのパートナーシップと経営管理を担っています。伊藤忠だけではできないことでも、他の企業と手を組むことでビジネスが拡大していくわけです。(p.44-45)
 ヨーカ堂との提携も、このビジネスモデルなんだろう。
   《参照》   『中国に喰い潰される日本』 青木直人  PHP研究所
             【ヨーカ堂を「勝ち組」にした伊藤忠の人脈と政治力】
 SISとLGS、このふたつのビジネスモデルと、現在手掛けている先端技術を加えていくことで、伊藤忠は新しい収益源を見出せるのではないかと考えています。(p.45)
 SIS(Strategic Integrated System)とは、川上から川下まで、揺りかごから墓場まで、小麦なら小麦の、生まれてから最終形態に至るまで総合的に関与すれば、必ずどこかで儲かるという発想のビジネスモデル。

 

 

【海外市場での考え方】
 約40年間、中国、アメリカ、ヨーロッパなど様々な国とビジネスをやってきた私の考えを言えば、企業同士の相互理解や信頼関係を培うことの重要性は世界共通、どこでも一緒なんです。誠実さと言行一致。この二つに尽きます。日本の企業とあまり変わりません。(p.51)
 アメリカで大豆ビジネスに関わっていた期間のことが色々書かれているけれど、アメリカの穀物メジャーなんて聞けば、単純に「巨大な敵対勢力!」と思ってしまいがちだけれど、著者はメジャーのスタッフとも肝胆相照らす仲になって、いろんな便宜を受けていたことが書かれている。ライバルであれ敵であれ、同じ戦場で戦うもの同士として、“誠実さと言行一致“ は有効なのである。

 

 

【給料返上】
 2000年3月期は単体で1630億円の赤字を計上して、無配でした。そのケジメをつける意味で、私は「当分、ただ働きする」と宣言しました。先期も無配で報酬カットを行っていましたから、これ以上ケジメをつけるとしたら無報酬しかないと考えたわけです。(p.80)
 これは、著者が社長になる以前から問題になっていた負債部分を整理したがゆえに赤字となっていたものなのだけれど、最高経営責任者としてこのようなケジメを付ける人ってそうはいない。大抵は、震災事故の放射能で甚大な被害を出しながら、被害者への補償より役員が先に高額のボーナスを受け取るという、東電クラスの人々ばかりである。
 ところで、この給料返上について、記者が自宅に取材に来た時のこと。
 取材が終わってから、ワイフから「本当なの?」と聞かれて「本当だ」と答えたんです。それで終わりです。(p.81)

 

 

【欧米との決定的な違い】
 アメリカのように、コーポレートガバナンス上、社外取締役を置く企業も増えてきました。わたしはこれを他律他省と言っています。つまり自分のことを他人が律して他人に反省を求められるということです。しかし、古来より、日本には自律自省の精神がありました。「恥を知れ」というのもまさにこれで、自分を戒め、恥を知ることが美徳とされてきたわけです。欧米との決定的な違いはここにあると私は思います。
 欧米の経営者の中には、引退後に贅沢三昧の生活を送る人も少なくありません。日本ではこうはいかないでしょう。やはり根底に恥の文化があるからです。(p.92)
 社外取締役って、業績を伸ばす上でのメリット創出用人材という視点でしか考えたことが無かったけれど、なるほど「取締役」という字義からすれば “他律他省” 用人材ということになる。
 欧米的文化圏の経済活動は、本質的に略奪経済からの流れできているから、そもその「恥」という概念などのっけからない。欧米をルーツとする国際経済は、「勝者が全てを取り、敗者は全てを失う」定めだから、当然のごとく格差は拡大し、ついには行き詰まって倒壊するのが必然である。
 日本経済に日が射す時期の早遅は、著者のような経営者が日本にどれだけいるかにもよるのだろう。

 

 

【クリーン、オネスト、ビューティフル】
 著者は、孔子の教えに何度か言及しているけれど、社員に対しては、「クリーン、オネスト、ビューティフル」をスローガンにして倫理を語り続けていた。
 日本にはもともと、謙虚に慎ましやかに生きることを美徳とする精神的風土がありました。資本主義の暴走に歯止めをかけるために今もっとも求められているのは、こうした謙虚さや自律自省といった倫理観にあると思います。
 しかし人間ですから、自律自省の精神を持ち続けることは決して簡単なことではないんです。紀州藩の藩主だった徳川頼宣は、悪いことをしてお師匠さんにつねられ痣をつくった。そして彼はこの痣を見るたびに自戒の気持ちを持ったといいます。 ・・・(中略)・・・ 。
 私が社長になっても会長になっても電車通勤を続けているのは、こういう意味合いもあるのです。(p.94-95)
 著者のような倫理観をもった日本人が激減してしまっているから、多分、強制的に、謙虚に慎ましやかに生きざるを得ない状況になるんじゃないだろうか。そう遠くない未来に。

 

 

【読書】
 私がこれまで自分の人生を振り返ってみて思うのは、絶対に読書を欠かさなかったことです。これまでの何十年という間の読書の蓄積は、人に負けないものだと思っています。そして読んだ人と読んでない人との差は、そう一朝一夕には埋められない。(p.125)
 太い幹をつくろうと思うなら、たえず考えながら本を読むことです。読書でしか得られないもの、それはやっぱり論理的な思考です。物事を掘り下げて考える力や、本質をとらえる力は、読書することで養われていきます。 ・・・(中略)・・・ したがって、読書をしないような人間は、これからの経営者にしてはいけない。(p.126)
   《参照》   『読書力』 齋藤孝 (岩波新書) 《前編》
             【思考力を養うため】
 私が最近の経営者を見ていてダメだと思うのは、週刊誌とスポーツ新聞しか読んでいない人が増えてきていることです。難しそうな単行本は読まない。これでは、論理的な思考はどんどん衰退していきます。もっと問題なのは、創造力が無くなることです。(p.210)

 

 

【正義感】
 新人の頃、隣の課の同期と飲んでいて、下請けいじめが行われていることを知り、正義感から企画統括課長のところへ直談判に行った。課長はすぐに動いてくれた。その結果。
 「けしからん、新人のくせに隣の課にまで口を出すとは何事だ」と言われ、ついには「あいつとは付き合うな」と交際禁止令が出ました。 ・・・(中略)・・・ 四面楚歌です。わたしには理解ができませんでした。正義のためにやっているのに、どうしてこんな目に遭うのか、さっぱりわからない。 ・・・(中略)・・・ 正義感がそのままあるいているような私を、会社の取引先の人たちは非常にかわいがってくれました。上司よりもそうした取引先の人のほうが、しょっちゅう飲みに連れて行ってくれたんです。(p.153)
 長い物には巻かれてしまう人が多くても、正義感という多分生まれながらの性分を持っている人は生涯治らない。著者が社長に就任した早々に負債部分の整理を断行したのも起点はここだろう。

 

 

<了>