《前編》 より

 

 

【改革】
 東大病院時代にも、先輩からは疎まれながらも、時代遅れの手術室をすべて改革しようとした。
「こんなのじゃ、駄目だ」 と頑張ったのだ。(p.67)
 先生は、若い頃から率先して手術を経験すべく、曜日毎にいくつもの病院へ出かけていったと書かれている。そして、よりよい手術を行うために、常に最善の方法を考えて、手術道具も改善・改革していったのだという。
 患者の幸せのことしか頭になく、官僚的気質など全然ない福島先生だからこその行動である。
 現在の医局には、依然として官僚的権力による悪弊が強く残っていて、若く優れた脳外科医の誕生をも阻んでいることが書かれている。
 福島先生が、アメリカへ行く大きなきっかけは、日本の医学界が引きずる権威主義だったらしい。
 わたしは鍵穴手術の第一人者として世界的にも評価されていた。
 日本では最も多くの症例を手がけ、しかも成績も抜群だった。
 それは、医療関係者なら誰もが知っていたはずだ。
 ところが、日本脳神経外科学会もわたしを認めてくれない。
 ・・・(中略)・・・ さすがのわたしも日本が嫌になってしまった。
 そんなところへ、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)から、教授として招聘したいという話が来たのだ。 (p.72)
 日米の医療現場を経験した福島先生が指摘する “日本医療の問題点” が、いろいろ書かれている。人口に比してあまりに多い日本の脳外科医師の数を、先生は 「粗製乱造」 と言っている。日本の患者さんは、そんな粗製乱造された医師による手術を受けて、後遺症人生になる可能性が高いということになる。ぞっとする。

 

 

【私費を投じて・・・】
 現在、わたしはノースカロライナのデューク大学の教授を務めているが、手術室にある手術機械はすべてわたしが自費を投じて買ったものだ。
 顕微鏡と記録用のビデオ機器は2台ずつある。
 大学にある研究室の改築費用だけでも、1000万円はかかっているだろう。
 それらをひっくるめると、この5年間で1億円は使ったことになる。
 その他、わたしのもとで勉強したいというフェロー(研究員)の面倒をみたりしているから、お金は出て行く一方だ。
 そんなわけで、その借金を返すまでは、とても引退できない。
 会計士の話だと、あと十年は働かないと返せないという。
 楽隠居ができるような状況ではないのだ。(p.89-90)
 アメリカでは、病院と医師それぞれに保険会社から医療費が支払われるので、日本より手術を行う医師の懐具合はましになるという。しかし福島先生は、常に患者さんのために pay forward である。

 

 

【手術一発 : 聴神経腫瘍】
 わたしにいわせれば、放射線治療は、聴神経腫瘍の決定的治療法とはいえない。 ・・・(中略)・・・ 。
 わたしの手術では、99%が手術一発で 「全摘」 になる。たとえわずかに残した、「亜全摘」 の場合でも、後遺症が問題になるような患者さんはいない。
 放射線治療と手術のどちらが安全かは、誰の目にも明白である。(p.115)

 

 

【手術一発 : 脳下垂体腺腫】
 手術一発で全治するものとして、脳下垂体の腫瘍がある。 ・・・(中略)・・・ 。
 典型的なのが男性の機能不全、つまりインポテンツだ。30歳くらいの若さなのに、男性機能が不全だという場合は、間違いなく 「脳下垂体腺腫」 である。
 また、女性の不妊症のうち10人に1人は、脳下垂体の腫瘍が原因だといわれている。
 その場合は、脳下垂体の手術をしさえすれば、ちゃんと子どもができるようになる。 ・・・(中略)・・・ 。
 現に、わたしは100人以上の女性の不妊症を治して、「赤ちゃん作りの名人」 といわれたりしていたほどだ。(p.117)
 該当する病気で悩んでいる誰かが検索して、このブログがヒットするかもしれないので書き出しておいた。
 脳の中心にある脳下垂体は、さまざまなホルモンを分泌する中心的な部位なので、この個所の腫瘍は、さまざまな身体的異常を誘発してしまう。
 また、脳下垂体は、松果体と並んで、密教において、人間改造(進化=神化)の核心的部位とされている。
 

 

【旧態依然のままの病院が多すぎる】
 日本の病院を見て驚くことが、もうひとつある。
 現代では通用しないような、それこそ20年も30年も前の、まるで時代遅れの手術をしている医師がいるということだ。
 わたしの見るところでは、80近くもある医科大学の中で、わたしが 「これなら」 と思う病院は、10にも満たないのが現状だ。ほとんどが時代遅れなのだ。
 こんな時代遅れの手術をしている先生のもとでは、若手がちゃんと育成されないことは火を見るより明らかである。(p.142)
 もしも患者になった時のことを考えつつ読むと、ぞ~~~っとする記述である。
 しかし、大学病院の先生方のお給料って、人が思っているほど多くないのだという。
 患者のために、最良の医術を提供するためには、医師、特に大学にいる先生方の生活を守ることから始めなければいけない。
 今求められているのは、大きな視点に立った 「医療改革」 である。(p.163)
 これは、この本のクロージング・センテンスである。
 「お金にこだわらず、人の3倍働く」 をモットーとしてきた福島先生だから、世界一の脳外科医になれたけれど、現在のままの日本の医療の状況では、優れた若い医師が育たないことを、福島先生は最も心配している。


【最後に】
 福島先生の様な方は、きっと目に見えざる世界から守られていることだろうから、「働き過ぎ」 と思える先生の状況を我々がいちいち心配しなくても、きっと大丈夫なんだろう。
 福島先生の患者になったことがなくても、面識など全然なくても、読者はきっと思うに違いない。
 「福島先生、ありがとうございます」 って。

 

<了>