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 企業経営のためジョホール・バルへ赴任した著者が、最初の1年間に経験したことが記述されている。1996初版。
 マレーシアにあるジョホール・バルは、シンガポールの中心部からバスで40分ほどで行ける国境の町。ここは香港~深圳間に次いで海外旅行スタンプ・コレクターの稼ぎ所である。なお、マレーシアを漢字一字で表すなら 「馬」 である。

 

 

【マレーシアと日本企業】
 マレーシアへは、日本からのODAで電力などのインフラが整備されたこともあり、松下電器を筆頭に既に1000社程の日系企業が進出しているはずである。日本で真っ先にマレーシアの異文化を体験し、それを体系的に記述してきた人々は、おそらく旅行者ではなく企業人だろう。
 この書物の中に見られる、マレーシア(国籍の)人は、概してアメリカ人や中国人とあまり変わらない。ふつうの日本人から見れば、呆れた人々である。労働観や美意識に関して、日本人以外はどの民族であれほぼ世界共通である。この様な点の具体例は、過去の読書記録の中に何度も書いているので書き出すつもりはない。

 

 

【マレーシアの個性】
 かつてマレーシアの経済政策顧問をしていた大前研一さんが、マレー系、華僑系、イスラム系(インド、インドネシア)民族が混在するマレーシアという国家の重要なポイントの一つとして、インド系の民族がいることを挙げていた記憶がある。インドが発展しつつあるから、日本とインドをインターフェースする地理的民族的結節点の役割を担うと思われたからであろう。
 その視点を、肯う記述がこの書籍にあったかというと、残念ながら否である。


【インド系住民】
 幼児誘拐事件も結構目立ちます。何故かインド系の人に巻き込まれるケースが多いようですが、インド人マフィア絡みの人身売買シンジケートの仕業の可能性が大との見方をしています。 (p.92)
 インド系住人には資産家が多いということであろうけれど、ここに書かれているのは、正の人脈ではなく、負の人脈のみ。
 読み終わって思うのは、インドのインテリは、やはりかつての宗主国・イギリスと縁が深く、次のオリンピック開催地であるロンドンの復興を大きく下支えしているのはインド系の財閥なのではなかろうか、とさえ思えてくる。マレーシアで繋がるインド人脈より、英連邦を介して繋がるインド人脈の方が、確度は高そうだ。
 

 

【ある法律】
 土日祭日に休日出勤しますと平日一日分の2倍から3倍の賃金を支払います。さらにUPするべく役所で検討中とか。これは仕方が無いとしても休日出勤は1日4時間働けばよく、それでも平日の一日分の2~3倍の賃金を払いなさいとの法律があるのです。 (p.57)
 これも顕著な労働観の違いを表す文化である。
○ 美に対する感覚は無く、清掃を指示すれば清掃分担外の工場内にゴミを棄ててしまう。 ○ 全従業員の8%に当たる人数を毎月新規に採用している。1年間でほぼ全員が止めてしまうからである。 ○ マニュアルどおりにしかやらないから、それ以外の物は、日本人社員がてんやわんやすることになる。 ○ 金曜日はイスラムの礼拝のために2時間ほど男性社員がいなくなるため、なるべく女性社員を採用していたりもする。 ○ 憑依的な現象によって作業ができなくなる社員が突発的に、しかし必ず発生する。医師は自発的に霊媒師を呼ぶという。
 これらは、企業で頻繁に報告される、ありふれた事例。

 

 

【向上心なし】
 海外に留学し、外資系企業に人事や社員教育担当の仕事をやっていた年配のマレー人は、私の質問に対して、自国民の99%の人が自己向上心はありませんよと言っていました。少しオーバーとは思いますが・・・・。「本」 を読みますと植民地支配の歴史的遺産の影響とのことです。 (p.58)
 マレーシアに限らず東南アジア諸国には、向上心の不足を、この手の植民地支配の負の遺産とする見解が多いけれど、もともと食に困らぬ熱帯の国であることが、植民地被支配とよく馴染んだはずである。半分は言い訳だろう。

 

 

【MDセミナー】
 この書籍の後半には、著者の会社が行った6回のMD(マニュファクチャリング・ディレクター)セミナーの要約が記述されている。実際に海外赴任に行かされる人ならば読んでおいた方がいいのだろう。海外赴任を嬉々として受け入れている方なら、きっとドキッとするような内容が具体的にはっきりと記述される。
 
 
<了>