川のせせらぎに混じり、エゾアカガエルの繁殖の鳴き声、オオジシギのディスプレイフライトの派手な音が、春の訪れを告げる。
蛇行した小川の縁、水芭蕉の咲く谷地にて、彼らは真っ先に芽を覚ます。
青いの見えるか?あそこにある。
師匠に言われるまで、私は彼らの居場所がまったくわからない。
彼らとは、アイヌネギ(行者にんにく)。
群生地では、少し青臭さの混じったニンニク臭がする。
川の縁や木の根元に生えているものの方が太くて、長いものが多い。
エゾエンゴサクの青が美しい。
背丈ほどもある笹薮を抜けると、急に開けた場所に出た。
水芭蕉の群生地である。
師匠が、熊もここで遊んだんだなあ。と指さした先には、熊の足跡が。
熊があちこちで水芭蕉を食べ散らかしている。
しかし、アイヌネギにはちっとも見向きもしないのがおかしい。
熊も鹿も、アイヌネギはまったく好みではないようだ。
やちぶきに手を伸ばした途端、足が腿の辺りまで埋まった。
見た目は浅そうなのに、油断すると底なし沼のように深い。
長靴の中まで泥水が入って、もう帰りたいと思ったのに、ネギ採りに夢中になっていると、その不快さはすぐに気にならなくなった。
山に入る前に、師匠は膝が痛いから今日は近くの林に行くと言った。
片足を引き摺っていたから心配していたが、帰る頃になってふと見てみると、普通に歩いている。
足、痛くないの?と尋ねると、山を歩いていたら治った。と言った。
そうなのだ。師匠は風邪も怪我も山で治すのである。
布団で寝ていると、何故かますます具合が悪くなる。と言うので、笑った。
師匠は、根っからの狩猟採集民族なのだろう。
野生の世界に呼応して、人間社会に上手く適応できない。
熊の足跡を見つけてから、すっかりビビっている私に師匠は言った。
足跡からして、俺らは風上にいるから、熊に匂いが届いているはずだから近くにいればとっくに逃げてる、と。
いやいや。だけど。
こないだ一人で山菜採りに行った時、100m先をの横切って行ったと言ってたじゃないか!
そのもっとずっと前は、車のすぐそばの歩道に座ってたからなかなか車に戻れなかった。とも言っていた。
まあ。太くて長いアイヌネギは、熊の出るところにしかないから、仕方ない。
帰ってから真っ先に、ナイフを研いだ。
一度、山菜採りで使うと、すぐに切れ味が悪くなる。
そして、万が一、熊に出くわしたら、それで急所を狙え。って、言われたからだ。
だけど、おい!それは、無理だろ!









