新井薬師の友人の家へ行き、ビールを少々いただき、たわいのない音楽談義を儀礼的に済ませたあと僕は彼の部屋の本棚に並んだ孤独な群集に目をやる。

窓から見える黄色い電車には大勢の人がバッグと憂鬱を抱え

八時から始まるテレビのバラエティー番組に間に合うように、あるいは優しげな恋人の眼差しに一刻も早く癒されたいと、つり革にしがみついている。

僕は友人が奏でるバンヘイレンもどきのギターに嫌気がさして、錆びついた手すりにつかまり階段を下りた。

中野のブロードウェイで安物のスニーカーを買い、笹塚行きのバスに乗った。

もちろん僕の乗ったバスはマジックバス。I WANT A MAGIC BUS♪ 

僕はいつものようにポケットからボロボロになったシェルタリング・スカイの文庫本を取り出す。

そろそろアマゾンで買いなおそうか。

本を開くと途端にそこはサハラ砂漠を走る香の臭いがたちこめた三十年も前のいかれたドイツ製のバスの車中だ。

人々は皆虚ろで、僕の前に座っていたはずのピアスをし、髪を栗色に染めた女性はいつのまにか黒いスカーフを頭にまとい、激しく揺れるバスに身をゆだねていた。

砂漠をこんなおんぼろバスが走れるものか。

僕は嘲笑と憤りの只中で一人スポットライトをあびる道化の熊だった。

なぜか街灯は眩しく、赤信号で止まるバスは何を待っているのだろう。

トカゲの休憩、それともラクダの葬送行進。

運転手は叫ぶ。まずい砂嵐だ。エンジンがいかれちまうぜ。

僕は知っていた。今南台の交差点に差し掛かっていたことを。

僕は緊張のあまり新しいスニーカーを箱から引っ張り出し、古いブーツを窓から投げ捨てた。

なんてことしやがるんだ。お前は砂漠の盗賊だろ。銃も剣も持たずにましてや水さえ持たずにサハラを渡れるものか。

僕は窓から見えたカフェの明かりに誘われバスを降りる。

背後からの罵声は永遠につづくだろう。熊はバスに乗るな!盗賊なら剣を持て!

マジックバスは行ってしまった。あのドラムとベースは永遠に葬られた。

僕はサハラでとびきりのお茶にありついた。


下北沢にはどうやって行けばいい?

あの男のあとについていけばいいさ。店主が顎で示した先にいたのは熊の着ぐるみを着

剣を磨きながらウォッカをすする僕だった。


やぁ、久しぶりだな。熊さん