刺繍―針がすくいだす世界 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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年間に数多くの公募展が開催されることから、

東京都美術館は、“公募展のふるさと”とも呼ばれています。
そんな東京都美術館で2017年より毎年開催されている展覧会シリーズが、

公募団体で活躍する作家を紹介する“上野アーティストプロジェクト”です。

9回目となる今年のテーマは、「刺繍」。

 

刺繍展「針がすくいだす世界」ポスター

 

 

“刺繍―針がすくいだす世界”と題して、

針と糸で作品を制作する作家にスポットを当てています。

星

 

 

紹介されているのは、大正末から現在までの5名の作家です。

本展の冒頭を飾るのは、平野利太郎。

 

刺繍展:花、魚、植物の作品
 
 

彼は、江戸時代より続く刺繍を家業とする家に生まれ、

日本刺繍の伝統的技法を踏まえつつ、革新的な表現に挑みました。

例えば、こちらはピーマンをモチーフとした作品。

 

ピーマンの刺繍作品、平野利太郎作
 
 
現代の感覚からしても、「刺繍でピーマンって!」と思いましたが。
改めて調べてみると、この作品が制作されたのが1947年。
ピーマンが日本で普及し始めたのも、ちょうどその頃。
つまり、当時としては相当珍しい野菜をモチーフにしていることになります。
そんなところも革新的だったのでしょう。
 
なお本展では、利太郎の父・松太郎の作品も特別出展されています。

 

刺繍のカタツムリ作品
刺繍で表現されたカタツムリの作品

 

 

まじまじと観ると、刺繍なのに、

ぬめぬめ感がちゃんと再現されていました。

しかも、そののっそりとした動きまで感じられます。

この父にして、この子あり。

日本刺繍の伝統は伊達ではありませんでした!

 

続いて紹介されていたのは、尾上雅野。

 

刺繍の作品:女性と花畑

刺繍作品、ダチョウと花畑の風景画

 

 

もともとは、個人的に手芸を楽しんでいたアマチュアでしたが、
主婦の友社が主催する手芸展で繰り返し入選を果たし、人気を博します。
その後、婦人雑誌に引っ張りだことなり、
毎年個展を開催したり、書籍も発売したり。
最終的には日本手芸普及協会の会長も務めました。
 
そんなカリスマ主婦の走りともいうべき、
尾上の代名詞としえるのが、羊毛を用いた絵画的な刺繍作品。

 

刺繍で描かれた田園風景と女性たち

 

 

目に飛び込んできた瞬間、印象派の絵画かと思ってしまいました。

刺繍というと、一般的には精緻なイメージがありますが、

彼女の刺繍はそれとは違って、近づいてまじまじと見てみると・・・・・

 

印象派風の絵画のような刺繍、女性と木々
 
 
荒々しく大胆なイメージを受けます。
それもまた、印象派の絵画を彷彿とさせるものもありました。

 

 

3人目に紹介されていたのは、刺繍画家の岡田美佳さん。

生まれつき、人との対話を苦手とするという彼女は、

20代の頃に、安野光雅の『旅の絵本』との出逢いを機に、

刺繍画を制作するようになり、以来独学で400点を超える作品を制作してきました。

 

東京都美術館で刺繍展、5作家の作品展示
刺繍絵画展示:平野利太郎、尾上雅野、岡田美佳、伏木庸平、望月真理

 

 

いつかどこかで目にした風景やモチーフを、

糸だけなく、ビーズや布、時には絵具も用いて再現している尾上さん。

その作品はどれも、温かみやまばゆさが感じられました。

 

刺繍で描かれた瓶と植物の静物画 
屋外での刺繍された食卓の風景画

 

 
きっと尾上さんにとって、どれもかけがえのない記憶なのでしょう。
眺めているだけで、心がぽかぽかしてきました。
なお、50点ほどある作品の中で最も印象に残ったのは、 《おもてなし》

 

刺繍で描かれた料理の絵

 

 

この絵を観ていたら、無性にスコッチエッグが食べたくなりました。

 

 

さてさて、展覧会は後半戦へ。

4人目の作家は、伏木庸平さんです。

 

image

 
 

伏木さんは生活している時間すべてが、制作時間とのこと。

朝起きてすぐや、電車での移動中など、

手が空いた時に、使い古した布に糸を刺しているそうです。

彼にとって大事なのは、針を刺すという行為そのもの。
完成形に向かって、作品を制作しているのではなく、
針を刺し続けた結果として生まれたものが、作品となるのです。


そんな伏木さんの作品の中でもっとも巨大なのが、こちらの《オク》

 

カラフルな刺繍作品とドレープ

 

 

なんと、2011年頃から現在まで、

15年近くにわたって、糸が刺し続けられているそうです。

《オク》が完成することはないそうで、

時にはその一部が分裂(?)して、別の作品になることもあるのだとか。

 

image

 

 

サグラダファミリアの完成がいよいよ見えてきた今。

《オク》が新たな「未完の代名詞」になるかもしれません。

 

展覧会のラストを飾るのは、望月真理さん。

もともとは西洋の刺繍を学び、制作していたそうですが、

50代半ばでインドを旅した際に、カンタ(※)に出逢い、共鳴します。

(※インドのベンガル地方を中心に伝わる古い布を重ねて刺し子刺繍を施したもの)

冒頭に展示されていたのは、そんな望月さんが、

初めて作ったというカンタ、その名も《一番初めに作ったカンタ》です。

 

刺繍「象は森の王様」望月真理作品

 

 

以来、彼女はカンタを制作し続け、日本にカンタを広める第一人者となりました。

 

刺繍作品展の展示風景
刺繍作品展:衣裳、円形アート、象の絵
 
 

ちなみに。

こちらの《象は森の王様》は、90代を超えた望月さんによるカンタ。

 

象の刺繍作品。庭園の風景

 

 
年齢を全く感じさせないどころか、
むしろ若々しさすら感じる作風です。
どことなく、南桂子さんの銅版画に似たテイストを感じました。
なお、2023年に95歳で亡くなるその直前まで、
望月さんはカンタを制作し続けていたそうです。
 
インドに行ったら人生観が変わった・・・とはよく聞くものの、
そこまで劇的に変わった人はいないだろう、と思っていました。
しかし、望月さんは間違いなく、インドで人生観が変わったようです。
インド、恐るべし!
 
 
 
 
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