美術の世界には、奇跡を起こしたヒーローが数多く存在する。
もしも、そんな彼らにヒーローインタビューを行ったなら・・・?
インタビュアー(以下:イ)「放送席、放送席。
本日はヨハネさんにお越し頂きました!」
グイド・レーニ《荒野の洗礼者聖ヨハネ》
ヨハネ(以下:ヨ)「あのー、何か本当にすいません。
僕なんかが出てきちゃって。今日は“ハズレ回”ですよね」
イ「いやいや、そんなことないですよ!
キリストさんの12人いる弟子の中でも、
3本の指に入る側近だと聞いていますよ」
ヨ「あっ、それは、僕じゃないほうのヨハネさんですね。
名前が同じで、紛らわしくて本当に申し訳ありません!」
イ「いえ、謝るのはこちらのほうです!大変失礼いたしました!」
ヨ「混同しないように、あちらは“使徒ヨハネ”さん、
僕は“洗礼者ヨハネ”と呼ばれることが多いです」
イ「なるほど。洗礼というのは、いわゆる、
キリスト教で新しい信者となるための儀式のことですよね?」
ヨ「そうですそうです」
イ「じゃあ、洗礼者ということは、
ヨハネさんは人々に洗礼をしてあげていたわけですね」
ヨ「まぁ、正確に言うと、ヨルダン川のあたりで、
「みなさん、ぜひ洗礼をしましょう!」と呼び掛けていました」
イ「ん?てことは、ヨハネさんは洗礼はできないんですか?」
ヨ「できはしますし、しばらくは実際に洗礼の儀式もしていましたけども。
この後に僕よりスゴいお方が到来するとわかってからは。
洗礼のキャンペーン活動のほうに全振りするようになりました。
なんせ僕なんて、そのお方に比べたら、
そのお方の靴ひもをほどく価値すらない人間なんです」
イ「よくわからない例えではありますが。
そんなに卑屈にならなくてもいいと思いますよ。
で、そのお方ってのは実際その後に現れたんですか?」
ヨ「はい、そうなんです。
しばらくたったある日、ついにあのお方、
つまり、キリストさんが遠くから現れたんですよ!」
アンニーバレ・カラッチ《目撃者となる洗礼者ヨハネ》
イ「めっちゃ驚いてますね!」
ヨ「それはもう、とってもビックリしました。
まさか本当に現れるだなんて」
イ「ここに来るのは知ってたんじゃないんですか?」
ヨ「いえいえ。本人から聞いてたわけじゃないですよ。
あくまで神様からの預言です」
イ「そうなんですね」
ヨ「キリストさんは、到着するなり、
「私に洗礼をしてください」と仰いまして」
イ「はい」
ヨ「それはあまりにも畏れ多いじゃないですか!
だから、「いやいや、そんなの無理です無理です!
洗礼なんてしなくていいです!むしろ僕が洗礼して欲しいくらいです!」と断ったんです。
でも、キリストさんは、「私は皆の手本になる必要があるので、
皆がやるべきことは僕もやらなくてはいけません。お願いします」と譲らなくて」
イ「そこまで言われたら、洗礼しないわけにいかないですよね」
ヨ「はい。そこで僕なんかで申し訳ないですが、
キリストさんに洗礼を授けたところ、天が開きまして。
そこから、神の霊が鳩のように降って来たのです。
そして、どこからともなく、「あなたはわたしの愛する子、
わたしの心に適う者」という天の声も聞こえてきたのです」
アンドレア・デル・ヴェロッキ《キリストの洗礼》
イ「天が開いたあたりから、イマイチよくわからなかったですが。
何かしらスゴいことが起きたってことは、伝わってきました。
何はともあれ、あのキリストさんに洗礼を授けただなんて!
洗礼者ヨハネさんは、実に素晴らしい活躍をされましたね!」
ヨ「いえいえ、そんなことないです。
僕はたまたま選ばれただけで。
聖書の中にはもっとスゴい人が登場しますから」
イ「またまた!謙虚すぎますよ~!
これだけの活躍をしたんですから、
やっぱりその後、幸せな人生を送れたんじゃないですか?」
ヨ「あぁ、そうですね、、、
あの後にいろいろありまして、、、」
イ「ほぅほぅ」
ヨ「首を斬られちゃいました」
カラヴァッジョ《洗礼者ヨハネの斬首》
イ「えっ?!」
ヨ「本当にね。僕なんかの首を斬り落とすことになって。
処刑人の方には大変ご迷惑をおかけいたしました」
イ「そこは謙虚じゃなくていいから!」
イ「しかも、いろいろあったせいで、西洋美術の世界では、
ヘロデ王の娘のサロメさんとセットで描かれる機会も多くて。
せっかくお美しい方なのに、僕なんかの首と一緒で申し訳ないです」
イ「首だけになっても謙虚なんか!
現場からは以上です。放送席にお返しいたします」



