永青文庫の設立者、細川家16代当主・細川護立は稀代のコレクターとして知られています。
収蔵品の1つ、「生駒光忠」と呼ばれる国宝の刀剣、
《刀 金象嵌銘 光忠 光徳(花押)生駒讃岐守所持》は、
なんと10代の頃にお小遣いを前借して入手したものなのだとか。
さすがは“美術の殿様”!
持って生まれたものが違います。
さて、10代の頃より護立は刀剣だけでなく、白隠や東洋美術も蒐集していました。
そんな激シブ(?)な少年だった護立は、
17歳の時に、上野で開催されていた展覧会で、
横山大観や下村観山、菱田春草の作品と出会い、感銘を受けたそう。
令和から観たら、大観も観山も春草も、
伝統的なシブい日本画に感じられますが、
当時からすれば、彼らの革新的な日本画はバリバリの現代アート。
多感な若者だった彼の感性は、大いに刺激されたのでしょう。
その後、まだ学生だった24歳の頃に、大観らの作品を購入したそうです。
以来、彼らと交流を深め、時にはパトロンとして、日本画の蒐集に励みました。
そんな護立の近代日本画コレクションにスポットを当てた展覧会が、
現在開催中の“永青文庫 近代日本画の粋―あの猫が帰って来る!―”。
同館で近代日本画コレクションが一挙公開されるのは、久しぶりの機会とのことです。
本展にはもちろん、横山大観や、
横山大観《柿紅葉》 大正9年(1920) 永青文庫蔵(熊本県立美術館寄託)※前期展示
下村観山の作品も出展されています。
下村観山《春日の朝》 明治42年(1909)頃 永青文庫蔵 ※前期展示
しかし、本展の主役は何と言っても、《黒き猫》。
「近代日本画でもっとも有名な猫」と評される菱田春草の代表作です。
重要文化財 菱田春草《黒き猫》 明治43年(1910) 永青文庫蔵 ※前期展示
今年のGWに公開された『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』、
そのオープニングで、古今東西の名画が引用されて話題となりましたが、
こちらの《黒き猫》も、その映像の中に登場していました。
実は、《黒き猫》は制作されて以来、
初となる本格的な修理が行われていたそうで、
本展はそのお披露目を兼ねて開催されているもの。
ドラえもんの映画と時期が被ったのは、まったくの偶然だったそうです。
さてさて、《黒き猫》はこれまでに何度か目にしていますが、
修理ホヤホヤだったこともあり、これまで以上に輝いて見えました。
今回改めて、よくよく観て気づいたのですが、
黒猫の周囲に、薄い光のベールのようなものがありました。
まるで猫からオーラが発せられているかのよう。
それだけに、可愛いというよりは、
どこか怖さもある神聖な存在に感じられます。
目が合った瞬間、すべてを見透かされている感覚になりました。
実際の黒猫ではなく、黒猫の精霊なのかもしれません。
ちなみに。
添えられたキャプションによると、春草はその短い生涯で、
確認されている限り、21点もの猫の絵を描いているそうです。
ただ、春草自身は猫が好きでなかったそう。
その理由は、媚びるから。
あれ?猫ってむしろ媚びない気が・・・。
春草の周りには、珍しく媚びる猫ばかりいたのでしょうか。
また、永青文庫の季刊誌の最新号には、
《黒き猫》に関して、こんなエピソードが掲載されていました。
明治43年。春草は渡米する岡倉天心に代わって、文展の審査委員に任命されます。
審査委員に相応しい大作を出品せねばと、
六曲一双の屏風絵の制作に取り掛かりました。
ところが、文展の開幕2週間前になっても、構想がまとまらず制作を中止。
出品を断念しようとしていたところ、
友人に「それは面白くない」的なことを言われ、
大急ぎでわずか5、6日で仕上げたのが、《黒き猫》だったのだそう。
もし、屏風絵が完成していたら。
もし、友人のアドバイスを受けなかったら。
《黒き猫》はこの世に誕生していなかったのですね。
さてさて、そんな《黒き猫》ですが、
作品保護の関係で展示は前期のみ(11月3日まで)。
同じく春草の《六歌仙》も前期のみの公開です。
菱田春草《六歌仙》(左隻) 明治32年(1899) 永青文庫蔵(熊本県立美術館寄託) ※前期展示
《黒き猫》目当てで訪れましたが、《六歌仙》も良き。
特に右隻のちょっとディーン・フジオカ似の在原業平が良かったです。
菱田春草《六歌仙》(右隻) 明治32年(1899) 永青文庫蔵(熊本県立美術館寄託) ※前期展示
なお、後期からは、《黒き猫》と《六歌仙に代わって、
春草のもう一つの代表作である《落葉》が公開されます。
重要文化財 菱田春草《落葉》 明治42年(1909) 永青文庫蔵(熊本県立美術館寄託) ※後期展示
さらに後期には、こちらも修理後初公開となる、
ともに重要文化財指定の中国墨蹟の名品2点も特別展示されるそう!
重要文化財 楚石梵琦墨蹟《無我省吾心華室銘至正丙午秋九月》
中国・元時代、至正26年(1366) 永青文庫蔵 ※後期展示
前期もいいけど、後期もね。
どちらに行くか、いや、どちらも行くか。
悩ましいところです。











