今年2025年は、戦後80年を迎える節目の年。
それゆえ、日本各地の美術館・博物館で、
戦争をテーマにした展覧会が数多く開催されています。
川崎市岡本太郎美術館で現在開催中の展覧会もそのうちの一つ。
企画展示室だけでなく常設展示室やガイダンスホールも使って、
館全体で“戦後80年 《明日の神話》 次世代につなぐ 原爆×芸術”を開催しています。
今年、重要文化財に指定される《太陽の塔》と、ほぼ同時期に、
メキシコのとあるホテルのために岡本太郎が制作した《明日の神話》。
広島と長崎に落とされた原爆やビキニ環礁での水爆実験を題材とした作品です。
その実物は現在、渋谷駅に恒久設置されているため、
そもそも、全長約30mの超大作であるため、さすがに展示されていませんが。
本展には川崎市岡本太郎美術館が所蔵する、約1/3サイズの原画が展示されています。
さらに、戦争や核を題材に制作した岡本太郎作品が約120点ほど展示されていました。
実は、岡本太郎には従軍と抑留の体験があります。
10年余りのパリ滞在からの帰国後、
30歳になった自分は徴兵されないだろうと思っていたら、まさかの合格。
4年半にも及ぶ過酷な軍務と収容所生活を経験しました。
1946年にようやく復員すると、それまでの作風から一変し、
戦争に奪われた時間を取り戻すかのように、ベラボーに制作活動に励んだのです。
戦争は決して肯定できるものではないですが、
もし戦争が無かったら、芸術家・岡本太郎は誕生していなかったのかもしれません。
さて、本展ではそれらの太郎作品と併せて、
広島県生まれ、在住のアーティスト・後藤靖香さんや、
NYを拠点に核問題をテーマに制作し続ける蔦谷楽さん、
2020年のVOCA奨励賞に輝いた李晶玉さんを含む、
現代アーティスト9組による作品も紹介されています。
それらの作品は基本的に、広島での原爆の記憶を起点とするもの。
なお、紹介されていた作品の中には、
一昨年の原爆の図丸木美術館での個展で新作として発表された、
冨安由真さんのインスタレーション《影にのぞむ》もありました。
作品の内容自体は大きく変わっていませんでしたが、
設置される空間が若干狭く、シンプルな内装になっていたので、
丸木美術館で発表されていた際と比べて、より演劇的な印象を受けました。
丸木美術館で一度目にしたことがある方も、
残念ながら見逃してしまった方も、改めてこの機会にぜひ!
それと、紹介されていた数々の現代アート作品の中で、
個人的に印象に残っているのは、米谷健+ジュリアによる代表作。
《クリスタルパレス:万原子力発電国産業製作品大博覧会》シリーズです。
ウランガラスで作られたシャンデリアが、
ブラックライトに照射され、妖しい光を放っています。
このシリーズ作品は、全部で32点あるのだそう。
というのも、現在世界で原発による発電を行っている国は32ヵ国。
米谷健+ジュリアの2人はそのすべての国の名前が付いた作品を制作しました。
なお、それぞれの作品のサイズは、
その国の原発から作り出される電力の総出力規模に比例しているとか。
ちなみに、本展で出展されているのは中国版です。
もちろん、岡本太郎の作品も、
現代アーティスによる作品も良かったですが。
本展でもっとも心を打たれたのは、こちらの作品群です。
壁一面に展示されているのは、
広島市立基町高等学校の生徒たちが描いた「原爆の絵」。
この中には、将来美術界を背負って立つ人材もいるかもしれませんが、
岡本太郎や現在一線で活躍する現代アーティストと比べてしまえば、素人です。
なのに、プロたちが制作した作品以上に、胸を打つものがありました。
なんでも、広島の爆心地に程近い基町高校では、
生徒たちが被爆者から半年以上の時間をかけて当時の体験談を聞きとり、
その記憶を「次世代と描く原爆の絵」として描く活動を20年近く続けているそうです。
本展で紹介されていたのは、42点の「次世代と描く原爆の絵」。
どれも原爆がもたらした地獄のような光景に、
高校生たちが真っ向から向き合い、真剣に描いた絵です。
作品によっては、被爆者が何度も描き直しをお願いしたものもあったそう。
お互い、辛い想いをしながらも、
それでも真実を伝えなくてはという想いで描かれています。
目を背けたくなるほど悲惨な場面がいくつもありましたが、
実際に体験した被爆者や描いた高校生たちのことを考えると、
立ち止まってじっくりと目に焼き付ける覚悟が生まれました。


戦後80年。
戦後は遠くなりにけり。
そう言えたらいいのですが、
今もなお世界各地で戦争が起こっています。
いい加減、このような愚かな行いが収まりますように。
一人でも多くの人に、この展覧会を、
「次世代と描く原爆の絵」を観て欲しいものです。














