世界でも数少ない版画を中心とする美術館、
町田市立国際版画美術館で現在開催されているのは、
“日本の版画1200年―受けとめ、交わり、生まれ出る”という展覧会。
32000点を超える膨大なコレクションの中から厳選された約240点を通じて、
奈良時代から現代まで、“日本の版画”の1200年の歴史を通観するものです。
(注:展示室内は一部撮影可。写真撮影は、特別に許可を得ております。)
本展の冒頭を飾るのは、《無垢浄光大陀羅尼経》。
奈良時代764年、恵美押勝の乱を鎮めるために、
称徳天皇が発願し、百万基作らせたという「百万塔」。
その内部に納められた現存する日本最古の印刷物です。
続く平安時代になると、さらに木版画の制作が活発となったそうで、
仏像の内部に納められるための印仏や摺仏なるものが制作されました。
スタンプのような感じで、ポンポンと押されています。
紹介されていた印仏や摺仏はどれも、手作業であることがまるわかり(笑)。
もう少しキッチリと揃えたほうが、有難みが増すような気がしました。
なお、仏教関連では、こんな作品も。
一見すると、普通の仏画のようですが、
実は、版で摺られた上に手彩色が施されたもの。
つまり、これも版画作品なのです。
さて、本展で紹介されているのは、仏教関連の版画だけではありません。
日本が世界に誇る浮世絵も数多く展示されています。
国芳や広重といった人気絵師の浮世絵はもちろん、
(浮世絵ではなく、狂歌本ですが、)
『べらぼう』ファンにはたまらない作品も。
葛飾北斎による『東遊』です。
江戸の名所が29図ほど収載されているそうで、
前期では、耕書堂の店先が描いた図が紹介されています。
大河ドラマの本編でも、そのうち『東遊』が登場するかもしれませんね。
また、浮世絵の次世代を担った新版画も、
本展では、たっぷりと紹介されていました。
それらの中には、あのスティーブ・ジョブズのお気に入りの作品で、
初代マッキントッシュのデモ画面に採用された橋口五葉の《髪梳ける女》や、
ジョブズが熱心に蒐集したことでも知られる川瀬巴水の作品も。
本展は、特にジョブス関連ではないので、
ジョブスとは関係ない新版画も多数展示されています。
その中でも個人的にとりわけお気に入りなのが、
大正から昭和にかけて活躍した美人画家、小早川清による《近代時世粧 瞳》。
約100年前の作品とは思えないモダンさがありました。
80年代のシティポップが似合いそうな感じ。
もしくは、80年代アニメのエンディング曲に出てきそうな感じ。
なんともエモい1枚です。
大正の美人画家といえば、竹久夢二による版画も。
紹介されていたのは、美人画ではなく、《治兵衛》なる1枚。
特にキャプションはなかったので、
治兵衛が何者なのかはよくわかりませんでしたが、
テンションが低めであることは伝わってきました。
青いほっかむりを嫌々付けさせられているのかもしれません。
なお、本展のラストを締めくくる第7章、
『「国際版画展」の季節』では、靉嘔さんや、
横尾忠則さんらの版画作品も紹介されています。
そんな第7章でもとりわけ重要な作品が
昭和を代表する版画家・棟方志功による《二菩薩釈迦十大弟子》。
本作は、1956年の第28回ヴェネツィア・ビエンナーレで、見事グランプリを受賞しました。
その快挙により、“版画の国”日本の存在を国際的にアピールしたのです。
なお、その翌年1957年には、東京国際版画ビエンナーレがスタートしています。
思い返してみれば、浮世絵も新版画も、
海外の文化に大きな影響を与えていたわけで。
昭和以降も、日本の版画は国際的な地位を築いているのですね。
町田市立国際版画美術館がなぜ、町田市立“国際”版画美術館なのか。
本展を通じて、その理由がわかったような気がします。



















