現在、埼玉県立近代美術館で開催されているのは、
“吉田克朗展―ものに、風景に、世界に触れる”という展覧会。
埼玉県生まれの現代美術家・吉田克朗(1943~1999)の初となる本格的な回顧展です。
多摩美術大学で学んだ吉田は、卒業後、
同大学出身の関根伸夫や菅木志雄さん、小清水漸さんといった、
いわゆる「もの派」と呼ばれるメンバーたちと制作を共にしていました。
関根伸夫による「もの派」を代表する一作《位相―大地》。
その制作の現場にも、吉田は加わっていたそうです。
それだけに、キャリアのスタート時には、
いかにも「もの派」といったような作品を次々に発表していました。
石や木材、ロープを使った作品は、
菅木志雄さんや李禹煥さんといった、
他の「もの派」の作家と、そう違いが感じられませんでしたが。
吉田克朗は当時、いち早く電球を素材に取り入れていたそうで、
それらの作品には、他の作家にはないオリジナリティが感じられました。
ちなみに。
このようにシンプルを極めたような作風なので、
吉田克朗本人も、シンプルな顔立ちなのかと思いきや。
むしろ、日本人離れしているほどの顔の濃さでした。
『ウィー・アー・ザ・ワールド』を歌ったメンバーの一人みたいなお顔です。
さてさて、そんな吉田ですが、
数年後には、「もの派」の作風から離れてしまいます。
「もの」を素材にするのではなく、
「もの」を転写するということに興味がシフトしたようで。
モチーフとなる“もの”を描き写したり、
あるいは、表面に絵具を付けて写し取ったり、
あるいは、上から紙を当ててフロッタージュしたり。
「もの」を転写することを繰り返しました。
彼の中でそれが終わると、また次のシリーズへ、
それも終わるとまた次なるシリーズへ、と展開していきます。
その変わりようは、まるで変異株のよう。
とても一人の芸術家とは思えないくらいに、
さまざまなスタイルへと変遷し続けていきました。
そんな吉田が最終的に辿り着いたのが、「触」のシリーズ。
文字通り、キャンバスに直接触って描いたシリーズです。
吉田は、粉末状の黒鉛を付けた手の指を、
キャンバスに何度も押し付け、擦りつけたのだとか。
そのことを知らない上で観ても、
キャンバス全体から、ゾワゾワするものを感じました。
知った上で観たら、なおさらゾワゾワするものを感じました。
なんというか、生理的に直接訴えかけてくるような。
あくまで僕個人の感想ですが、
生理的に嫌悪感のようなものすら覚えました。
「触」シリーズの作品が目に飛び込んでくるたびに、
“うぅ・・・うっぷ・・・”と、胃酸が軽くせり上がってきていた気がします。
強いて、似ているものを挙げるとするならば、
漫☆画太郎さんの漫画のタッチに通ずるものがあるような。
好きな人は、とことん好きでしょうし、
受け付けない人は、まったく受け付けないでしょう。
0か100か。そういったタイプの作風です。
とは言え、これだけの個性には、なかなか出会えるものではありません。
個人的には「触」シリーズはあまり受け付けなかったですが、
吉田克朗という芸術家を知れただけでも、展覧会を訪れてよかったです。

なお、担当された学芸員さんにとっては、
吉田の作風は、完全に好ましいものなのでしょう。
最後の大作となった《触“春に”》に対して。
キャプションでこのようにコメントしていました。
「春の陽射しのあたたかな温もりの中に、
生命が息づく力強い躍動感を感じさせる。」
まぁ、感想は人それぞれですので、
否定するつもりは、まったくありません。
ただ、キャプションのどこかにでも、
「※個人の感想です」とは書いておいてほしかったです(笑)。















