茶入と茶碗 『大正名器鑑』の世界 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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根津美術館で開催される展覧会、

“茶入と茶碗 『大正名器鑑』の世界” を一足先に訪れてきました。

 

(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)

 

 

釜、水指、茶杓、香合、花入etc…

茶の世界にはさまざまな道具がありますが、

中でも特に人気が高いのが、茶入と茶碗です。

なぜ、この2つが特に人気が高いのでしょうか?

実は、そのきっかけの一つを作った本があります。

それが、展覧会のサブタイトルにある 『大正名器鑑』。

 

大正名器鑑(初版本) 高橋義雄(箒庵)編 日本・大正10年(1921)~昭和2年(1927) 根津美術館蔵

 

 

作者は、近代日本の数寄者・高橋義雄(箒庵)。

今からちょうど100年前の1921年より約5年間をかけて、

全9編11冊および索引が刊行された茶道名器の図録です。

この本の一番の特徴は、これまでに刊行された、

『山上宗二記』 や 『古今名物類聚』 といった名物記とは違い・・・・・

 

古今名物類聚 陶斎尚古老人編 18冊 紙本木版 日本・江戸時代 天明7年(1787)序

 

 

紹介する茶道具を茶入と茶碗の2種類に限定した点にあります。

また、掲載されているのは、高橋みずからが、

日本全国を訪ね、実際に自身の目で見たものだけです。

こうして制作された 『大正名器鑑』 は、茶人のバイブルに。

この本に掲載された茶入と茶碗の価値は、グッと上がったそうです。

ちなみに、図版はもちろん当時最先端だった写真が採用されています。

 

 

 

さてさて、そんな 『大正名器鑑』 に掲載された茶入や茶碗の名品を、

『大正名器鑑』 に記された高橋の言葉と併せて紹介しようというのが今回の展覧会。

 

重要文化財 《肩衝茶入 銘 松屋》  福州窯系 中国・南宋~元時代 13~14世紀 根津美術館蔵

 

 

タイトルだけ目にすると、

シンプルでやや地味な印象を受けるかもしれませんが。

実は、茶道具ファンにとっては、

スター茶道具勢ぞろいの夢のような展覧会なのです。

星星

 

 

もちろん茶入や茶碗そのものにも感銘を受けたのですが。

個人的には、高橋の気遣いぶりにも感銘を受けました。

所有者に頼み込み、取材させてもらっているため、

茶入や茶碗によっては、言葉をかなり選んでいるようでした。

例えば、こちらの 《曜変天目》

 

重要美術品 《曜変天目》 建窯 中国・南宋時代 12~13世紀 根津美術館蔵

 

 

小堀遠州によって、《曜変天目》 と記された茶碗ですが、

実物を目にした高橋自身は 《曜変天目》 ではないと感じたそうです。

(現在では、《油滴天目》 に分類されると考えられているようです)

しかし、所有者の手前、そのようには書けなかったのでしょう。

「曜変天目としては、星紋極めて小さく、彼の梅鉢様の大星紋を見ず」 と記しつつ、

「曜変にもこのような種類があると理解した」 と断定を避けるような形で乗り切っていました。

ぺこぱの松陰寺ばりの人を傷つけない記述。

同じ美術作品を紹介する身として、大変勉強になりました。

 

ちなみに。

 

《薩摩茶入 銘 亀尾》 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵

 

 

《薩摩茶入 銘 亀尾》 に対しては、

高橋はこんなコメントを残しています。

 

 

 

ブヨブヨ。

それが誉め言葉なのかどうかは、やや微妙なところですが、

そのあとで、ちゃんと 「景色面白き事言はん方なし」 と持ち上げているので、きっと大丈夫。

決して、フォローを忘れない。

そんな気遣いの男・高橋ではありますが、

掲載するかどうかのジャッジは、なかなかにシビアだったそうです。

その証拠が 『大正名器鑑』 の稿本、つまり原稿にあります。

 

大正名器鑑稿本 15冊のうち 紙 日本・大正~昭和時代 20世紀 個人蔵

 

 

掲載されているのは、現在は根津美術館が所蔵する 《瀬戸尻膨茶入 銘 夜舟》

こちらの稿本には掲載されていますが、

刊行された 『大正名器鑑』 にこの茶入れは掲載されていないそう。

よく見ると、こんなシールが貼ってありました。

 

 

 

失格

「掲載見送り」 でも、「保留」 でもなく。

「失格」です。

勝手にエントリーされて、勝手に失格にされて。

告白してもないのに振られる、くらいに切ないものがあります。

 

 

ちなみに。

今回の展覧会では、茶入や茶碗だけでなく、

『大正名器鑑』 に掲載されている共箱や仕覆といった付属品も併せて紹介されていました。

 

 

 

一般的な展覧会ではあまり目にできないものなので、興味津々。

へー。こういった付属品とともに、普段は保管されているのですね。

歴史的な茶道具なので、箱を包む布はシックな柄が多いのだろう、と思い込んでいましたが。

 

 

 

意外と、和っぽくないものありました。

キャスキッドソン的な。

それがわかったのが、僕的には今回の一番の収穫です。




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