ここに一枚の写真があります。
人生で初めての登山をし、
その足で向かったせせらぎの里美術館の前で撮った、想い出の一枚。
この写真を見ていると、
いろいろなことが思い出されます。
辛かったこと。腹が立ったこと。泣き出したかったこと…。
あれれ、楽しい想い出は、いずこに?!
この写真が撮られるまでに、一体、僕に何があったのか。
物語は、登山に挑むところから始まります。
K女史の策謀 (?) により、
2人分の荷物を背負って、登山に臨むことになった僕。
リュックが悲鳴を上げています。。。
僕らが挑んだ登山コースは、
「鳩の巣駅 (徒歩80分) → 大楢峠 (徒歩70分) → 御岳山」
という行程。
まず目指すのは、大楢峠という場所です。
登り始めは、だいぶ余裕がありました。
僕は、アートテラーらしく、最近行った美術展の話などをしたり、
K女史は、 「♪マ~ル~ハのち~く~わ」 といきなり歌いだしたり (←?) 。
楽しいハイキングと云った感じでした。
ところが・・・。
30分も、山道を歩き続けていると、そんな余裕はどこへやら。
足への負担。肩への負担。
湧き出る汗。乾く喉。
そして、何よりも、徹夜明けで重いまぶた。
日ごろ運動していないのが、
これでもかとたたって、肉体は限界に。。。
朦朧としそうな意識の中で、
“夢であってくれ。実は自宅で寝ていた、ってことになってくれ”
と、何度念じたことでしょう。
しかし、悪夢なことに、こちらこそが現実。
そんな現実を受け入れた時、
「うぉーーーーーーーー!!!!!!!」
思わず腹の底から雄叫びをあげてしまいました。
どうやら、僕の中の野生の血が覚醒したようです。
突然の僕の変貌に、さすがのK女史も、
「いつものとに~さんじゃない…」
と、戸惑っている様子。
ただ、覚醒したおかげでしょうか 、
その後、45分近く歩き続け、何とか大楢峠まで辿りつきました。
しかし、その時点で、体力ゲージは、0。
もうこれ以上の登山は無理そうです。
とりあえず、休憩を。
と、リュックを下ろした、その瞬間です。
「軽っ!えっ、体、軽っ!!!」
『ドラゴンボール』 の孫悟空は、
修行のために重り入りの胴着を着用していました。
彼が、その胴着を脱いだ時、
この時の僕と、全く同じ感動を覚えたに違いありません。
ともあれ、身軽になった瞬間、
体力が脅威的に回復して行きました。
自分で自分が怖くなるほどに。
一旦休憩を取れたことに加え、
“大楢峠~御岳山” の道のりが、整備されていたこともあって、
登山後半は、前半よりも楽な足取りで進むことが出来ました。
そして、登山開始から約3時間。
ついに御岳山のビューポイントへ到着!
達成感と充足感も相まって、最高の景色でした。
こんなにも美しい景色は、
今までの人生で観たことがありません。
ただ、登った当の本人は、
そんな景色とは裏腹に、汗やら何やらで、美しさの欠片もありませんが (笑)
心行くまで山頂からの眺めを堪能しました。
さてさて、ここからが本番です。
下山して、せせらぎの里美術館に向かわなくてはなりません。
美術館を訪れなかったら、この記事は、単なる登山リポート。
アートに全く関係ない記事になってしまいます。
下山は、ケーブルカーという選択肢もあったのですが。
ネイチャーガール・K女史も、
そして、にわか “山男” と化した僕も、ケーブルカーなる文明の利器に頼る気は全くなし。
降りるのも、当然、この脚で、です。
K女史セレクションの久石譲の音楽を、
iPodで聴きながら、自然と一体化しつつ下山する僕ら。
目に飛び込んでくる景色全てが、アートのよう。
そんな夢ごこちのような時間が、どれくらい過ぎた頃でしょうか。
突然それはやってきたのです。
夢から覚める、その時が。
覚めない夢はなし。どんな楽しい夢も、必ず覚める時が来るのです。
“はっ!いつまで下山するんだ!?
てか、美術館の閉館時間に間に合うのか?”
一番恐れていた事態が、起きてしまうのではないか。
嫌な予感がプンプンと漂ってきました。
「あのー、K女史さん。これって、間にあうのかな??」
気付けば時刻は16時を回っています。
そして、K女史から、とんでもない言葉が飛び出しました。
「とに~さん、走りましょう!」
「イヤだ~~~~ (泣)」
走って山を下る困難さは、
箱根駅伝を見て、イヤと云うほど知っています。
しかも、今の僕は、箱根のアスリートたちと比べて、
トレーニングは積んでない、3時間登山した疲労が蓄積されている、
そして、2人分の荷物の負荷が背中にかかっています。
「無理です… (泣)」
と言いかけた時に、そこにK女史の姿はなし。
すでにK女史は、走り出していました。
「お~い・・・・」
そこからの20分は、それはそれは壮絶でした。
もし、あれが地獄だと云うのなら、
今から心を念入りに洗って、天国に行ける人生を歩みたいと思います。
地獄のような下山を終え、
ようやく、御岳駅行きのバスに乗りました。
その時、時刻は16時35分。
閉館時間は、17時。
瀕死状態の僕は、すっかり諦めムードです。
が、運転手に話を聞いてきたというK女史から、更なる驚きの発言が。
「御岳駅には、ここから10分で着くみたいですよ。
で、御岳駅から、せせらぎの里美術館までは歩いて20分だそうです♪」
「おいおい!今、16時35分だから、駅に着くのが、45分。
そこから20分歩いたら、17時5分だよね?もう間に合わないよね?!」
どうやらゲームオーバーのようです。
しかし、K女史は、平然とこう言いました。
「とに~さん、歩きで20分ってことは、走れば10分ですよ♪
16時55分には着くじゃないですか♪」
「まだ走るのかよ (泣) !!!」
終わりかと思っていたのですが、
ロスタイムがあったようです。
さぁ、ロスタイム10分。
死ぬ気で走ってやろうじゃないか (←自棄) 。
うぉーーーーーーーー!!!!!!!
御岳駅に到着するなり、ラストランが始まりました。
美術館を目指して、ひたすら走る一行。
4、5分ほど走ると、
『近道はこちら⇒ せせらぎの里美術館まであと8分』 の看板が。
先頭を走っていた僕は、迷わずそちらに誘導されました。
階段を下っていくと、多摩のせせらぎが目の前に。
ここからは、渓流沿いに進んで行けばいいようです。
と、ふと振り返れば、皆、一様に限界に近い表情。
おそらく、このペースでは間に合いません。
僕も相当に苦しかったのですが、
気力を振り絞れば、あと少しだけ走れそうなくらいの力は残っていました。
「こうなれば、僕がせせらぎの里美術館に滑り込んで、
あとは交渉して、17時ちょっと過ぎまで開けててもらおう!」
そう決心しました。
ここが、一番の頑張りどころと、
自分に言い聞かせ、最後の猛ダッシュをしました。
最後の死力を尽くして、とに~は走った。
「待ってろ、セリヌンティウス…もとい、せせらぎの里美術館!」
K女史の応援が、
背中から聞こえてきました。
「とに~さ~ん!!とに~さ~ん・・・」
言葉を返す余裕は無いので、
走ることでその想いに応えました。
皆に絵を見せる。
それこそがアートテラーの使命。
例え、この脚がどうなろうとも。
それから、5分は走り続けたでしょうか。
いつまで経っても、せせらぎの里美術館に辿りつきません。
“おかしい…” と思って、ふと横を見ると、
『御岳駅近道は、こちら⇒』 の看板が。
「・・・・・・・・・・・ま、まさか」
気付けば、ケータイが鳴っています。
何となく察しは付いたものの、出てみれば、
「とに~さん、何、全力で逆走してるんですか?!」
という第一声。
「最悪だ…(泣)」
どうやら、渓流に辿りついた時に、逆走してしまったようです。
その時、K女史は、
「とに~さ~ん!!とに~さ~ん逆走してますよ!!」
と叫んでいたのだそうです。
珍しく声援してくれていると勘違いしていた自分に羞恥しました。
結局、僕が最後に逆走したせいで、
せせらぎの里美術館には間に合わず。。。
閉館してしまった美術館の前で撮ったのが、冒頭の写真です。
自然はいろんなことを教えてくれる。
重大な場面で選択を間違える男、それがとに~。
そう教えられました。
諸々応援お願いします・・・。





