今回ご紹介するのは、川崎市岡本太郎美術館にて、7月1日まで開催されている
「青山時代の岡本太郎 1954-1970 現代芸術研究所から太陽の塔まで」展。
実は、この美術展、世田谷美術館での
「世田谷時代1946-1954の岡本太郎 戦後復興期の再出発と同時代人たちとの交流」展と
対になっていた美術展。
言わば、美術館のコラボレーションとも言うべき珍しい美術展。
ただ、「世田谷時代~」の方は、残念ながら、先月の27日で終わってしまいました。
紹介するのが遅かったですね。
しかししかし、ご安心下さい!
「世田谷時代~」の岡本太郎は、言ってしまえば、まだまだ成長段階の岡本太郎。
本領を発揮するのは、今回ご紹介する「青山時代~」の岡本太郎です。
つまり、この美術展にさえ行ければ、岡本太郎のことは、もうわかったも当然なのです。
さてさて、その美術展のレポートを。
その日、僕は、最寄の小田急線向ヶ丘遊園駅に着いて、軽く衝撃を受けたのでした。
何と、美術館まで、徒歩17分だというのです。
美術館に、向かっている最中に、“爆発!”しそうになったのは、もちろん言うまでもありません。
しかし、そんな小さな怒りも、美術館に着いた途端、吹き飛んでしまいました。
美術館の周りにある太郎作のオブジェや、
この美術館のシンボルタワーである 《母の塔(写真・中央)》 を観て、そのパワーに圧倒されてしまったのです。
美術館の外ですら、こんなにも太郎のパワーが溢れているのです。
どうやら、ここ川崎市岡本太郎美術館は、とてつもないパワーポイントのようです。
今回、何より、一番感じたのは、世田谷から青山にアトリエを移してからの岡本太郎の芸術活動が、
さらに広範囲に、さらにパワフルになっているということ。
歳が反対に若返っている気さえしました。
絵画、オブジェ、評論活動はもちろんのこと。
テキスタイル、デザイン、建築、写真、詩作、果てはテレビ・CM出演まで行う。
とにかく、1人の人間が行える活動の限界を、遥かに超えていることに驚かされます。
しかも、そのどれもが、中途半端でなく、クオリティーを保っているわけです。
そのことに、飽きれるほど感心しました。
この美術展での一番の見どころは、
去年日本テレビビルで公開され話題になった《明日の神話》、その下絵です。
下絵といっても、侮るなかれ。
大きさも相当ありますし、迫力だって相当なものがあるのです。
で、この絵の前には、太郎がデザインした椅子が用意されているのです。
その椅子に腰掛けながら、絵を観賞する。
目で楽しんで、座り心地を楽しんで。
と、何とも岡本太郎尽くしの贅沢な体験ができるのです。
さて、きっと今回のコラボ美術展を持ってしても、
その全worksの半分もカバーできないほどの美術界の巨人・岡本太郎。
様々な活動を行い、膨大な作品群を残した彼を、いつものように一つのキーワードで読み解くと言うのは、
大変に至難な業であり、冒涜であるような気もいたします。
が、しかし、岡本太郎自身、独自の視点で、美術評論活動をしていた男です。
きっと、僕が何を言っても、怒らないでしょう。…きっと。
現在、活躍するアーティストにも、様々な影響を与えた岡本太郎ですが、
彼の芸術・思想が、日本の特撮ヒーロー界にも影響を与えていたということは意外と知られていません。
日本の特撮ヒーロー番組を代表する【スーパー戦隊シリーズ】。
現在放映されている “獣拳戦隊ゲキレンジャー” で何と第31作目という、長い長い歴史を誇るシリーズです。
実は、この30分の番組の中に、岡本太郎の芸術・思想が全て詰まっていた!…というのが今回のお話です。
まずは、【スーパー戦隊シリーズ】 は、その誕生から、
すでに岡本太郎と切っても切れない関係にありました。
その1作目は、いわずと知れた“秘密戦隊ゴレンジャー”。
放映されたのは、1975年のことです。
それまでの、ヒーローと言えば、ウルトラマン、仮面ライダー、古くは月光仮面など。
特撮ヒーロー界には、「たった一人で悪と戦う絶対的なヒーロー」であるからこそ
面白いのだという「常識」がありました。
当時、 “秘密戦隊ゴレンジャー” は、
長年のその「常識」を打ち破って作られたアバンギャルドなヒーローだったのです。
今では、ちょっと私語に近いこの 『アバンギャルド』 という言葉、
これこそ、まさに岡本太郎が自分の芸術に対して標榜した言葉でした。
意味としては、「社会の変革や文化の発展の最先端に立って一般大衆を率先するような芸術家」と、
ちょっと小難しい。
今までの常識を超える前衛的な芸術家というニュアンスでしょう。
では、次に岡本太郎の作品に共通する、いくつかの特徴を見ていきましょう。
その一つが、原色の使用。当時、原色を使うというのは、もっとも稚拙なこととされていました。
しかし、太郎はそんなことに気にせず、原色の持つ力強さに惹かれ、絵に使用し続けたのです。
そして、勢いのある筆遣いも、また特徴的です。
“縦横無尽な”、“踊るような”、“激しい”、“戦闘的な”。
様々な言葉で、彼の筆使いは形容されています。
さらにもう一つ。彼は自身の芸術に対して、 『対極主義』 という考えを持っていました。
これは、「芸術家の基本的な姿勢とは、
作品の中に対立する二つの要素をそのまま共存させることである」という考え方。
例えば、無機物と有機物。
抽象と具象。静と動と言ったように。
どうですか?これらの岡本太郎の作品の特徴が全て、
【スーパー戦隊シリーズ】 に反映されているでは、ありませんか。
原色の戦闘スーツを着たヒーローが、画面の中で縦横無尽に戦う。
そして、その構図は決まって、“正義” と “悪” の対立。
ちなみに、岡本太郎は、その著書の中で、次のようなことを述べています。
「赤は女の色であった。が、僕は、赤こそ男の色であると思う。だから、僕は、赤を絵に使うのだ」と。
【スーパー戦隊シリーズ】 のリーダーが、必ず赤であるという暗黙のルールは、
岡本太郎の影響を受けていると言えるのかもしれない。
岡本太郎の影響を受けたと言えば、もう一つ。
【スーパー戦隊シリーズ】 最大の特徴とも言える、アレを忘れてはいけません。
それは、1979年の “バトルフィーバーJ” から登場した「巨大ロボ」です。
クライマックスにおいて、等身大のヒーローが、巨大なロボットを操って戦うという斬新なアイデアは、
視聴者にも玩具メーカーにも好評で、
今でも、この【スーパー戦隊シリーズ】 には欠かせないものとなっています。
一度、地上戦でヒーローが敵に勝っても、その後、敵が復活して巨大化するというのは、もはやお約束。
そして、それを見ながら、「じゃあ、最初から、巨大化して戦えばいいじゃん」と
テレビにツッコんでしまうのも、これまたお約束。
この 『巨大化』 という現象は、岡本太郎の制作活動の歴史の中にも、見て取れます。
しかも、一番の見せ場において。
そして、奇しくも、その『巨大化』した作品が彼の代表作となっています。
それは、 《太陽の塔》 と 《明日の神話(一部:写真・右)》 。
突如として、岡本太郎は、こんなにも巨大な作品を作っているのです。
これが一体、何を意味するのか。
その答えは、日曜の朝7時半にあるのかもしれません。
と、今回このキーワードを導き出したのは、川崎市岡村太郎美術館を鑑賞中でのことでした。
岡本太郎の絵を観ていると、どうにも、心がワクワクしたのです。
それも、童心に戻って、心の底からワクワクしたのです。
こんな感覚は、そうそう経験できるものではありません。
この感覚は、ヒーローショーを観ている時の感覚に一番近い気がしました。
今でも、岡本太郎の作品が、多くの人に愛される理由は、この感覚にあるのではないでしょうか。
また岡本太郎美術館の内部には、太郎のデザインした物がたくさん展示されていて、
それはまるで秘密基地のよう。
これが、さらに、この感覚を煽るのでした。
そんなことから、漠然と【スーパー戦隊シリーズ】 を連想し、
帰るときに、もう一度、美術館のシンボルタワー 《母の塔》 を見上げてみました。
すると、【スーパー戦隊シリーズ】 というキーワードは確信に変わりました。
もう一度、写真をよく見てください。
塔の中心に、5人組がポーズを決めて立っているではありませんか。
これは、もう疑いようのない事実です。
岡本太郎の絵を一度も観たことがないという人は、是非、一度本物を観てみてください。
彼の作品は、直接、僕たちの心に触れてくるのです。そう、握手をするかのように。
太郎は、おそらく、こう言っています。「美術展で僕と握手!」と。
さぁ、岡本太郎と出会うために、岡本太郎コラボ展に行こう!
