● 「水の情景-モネ、大観から現代まで」展 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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波 ・ 嵐の海

 

 

今回は、横浜美術館にやって参りました。


実は、この横浜美術館は、去年の10月に、

日経新聞による公立美術館の実力調査で、最高の“AAA”評価を獲得。

なんと総合1位の名誉に輝いた美術館。
ミシュラン風に言うならば、3つ星美術館ということ。これは、相当に、すごい!

そんな横浜美術館で、7月1日まで開催されているのが、「水の情景-モネ、大観から現代まで」展

この美術展の概要には、こうあります。


“この展覧会は、古今東西の水に魅せられた芸術家たちによる、

絵画、写真、映像、彫刻など、水を主題とした作品約100点を紹介します”


まぁ、要するに、時代も国もジャンルも関係なし、“水”がテーマの作品なら、何でもアリという美術展。

印象はというと、ラジオのリクエスト番組のようです。
「今日のテーマは、『水』。

『水』に関する美術作品を、場所の許す限り、ガンガン紹介していくぜ!」
と、そんな感じ。
普通の美術展なら、予めどんな作品が見られるか、ある程度の予想がつけられるものです。
が、この美術展は、そうはいきません。

 


一体、次にどんな作品が紹介されるのか?

僕の好きな作家の作品は、紹介されないのか??
何とも、ドキドキワクワク、番組…いや、美術展の最後まで、目が離せません。 

 

そういうわけで、全く飽きの来ない美術展です。さすが総合1位の横浜美術館。
横山大観やターナーと言った有名作家の作品も多数展示されていて、

作品自体のレベルも、もちろん高いのですが、何と言っても、今回の美術展の一番の魅力は、展示の仕方。

とにかく、展示の仕方が絶妙なのです。

このことに注目すれば、この美術展をさらに楽しめること請け合いです。

 


例えば、こんな空間があります。
現代を代表する作家・丸山直文さんの絵の横に、モネの 《睡蓮》 が展示されているのです。

その真向かいには、昭和の前衛芸術家・高松次郎の水彩画が。


床に目を向けると、現代美術の作品があり、そして、その空間の片隅に、

写真家のH・C・ブレッソンの傑作 《サン・ラザール駅裏》 が、ちょこんと飾られている。
一つ一つの作品を、じっくり鑑賞するのも良いですが、

他の美術展では、まず出会えないであろう、この空間全体を観賞して、楽しみましょう。


二度と隣り合うことがない2つの作品の共通点を探してみたり、違いを実感してみたり。
言うなれば、"行間も楽しめる”美術展。
こればかりは、図録を買ってたところでも、追体験はできません。

行くしか、体験できないのです。あと数日の間に。
急がねば。


 

また、この美術展ほど、美術展にあまり足を運んだことがない人に、オススメの美術展はないでしょう。
というのも、作品のジャンルが、本当に豊富。

これだけあれば、どれか、ひとつくらいはピンと来るものがあるというものです。

いや、もし、それでも、一つもなかったとしましょう。

そしたら、横浜を見学して帰ればいいのです。

美術館の近くには、ランドマークタワーに、みなとみらい21。

ちょっと歩けば、山下公園に中華街。来ても、無駄足になることはありません。
あぁ、これなら、安心して、僕もオススメできると言うものです。

 

さて、ここまでを読んで、もし、この美術展に行かれたくなったという方がいたなら、その前に一つだけ。
この美術展でも、いくつか作品が展示されている、ある画家について知っておきましょう。

作品を見る楽しみが、少しだけ増えるかもしれません。


 

その画家とは、ギュスターブ・クールベ

フランスの画家です。


「…誰?」
そう思った方も、少なからずいるでしょう。そこまで、メジャーではない画家です。
しかししかし、彼は美術史において、'超’が付くほどの重要な人物。

テストをやったら、間違いなく出てくる。

 

では、一体、何をした人なのでしょうか?

美術の本には、こう書かれています。


「クールベは、17世紀のフランスにおいて、主流であった"新古典主義”や"ロマン主義”の

理想化された世界に反発して、現実をありのままに捉える"写実主義”を唱えた」

 

…うーん。わかったような、わからないような。
たった一文の中に、3つも"○○主義”が出てきてしまっていて、何が何だか。ちんぷんかんぷんですね。

そこで、今回、僕は、この辺りの美術史の流れを理解しやすくする、ある画期的な方法を思いつきました。

それは、この辺りの美術史を、そっくりそのままアイドル史になぞらえて理解しようという方法。
「…何をバカなことを?」と思われた方もいることでしょう。
いやいや、もう少しお付き合い下さい。
美術も、アイドルも、"美”を追求するという部分では同じ。

通ずるものがありそうではないですか!
…たぶん。


 

まずは、 " 新古典主義 ”。

これを、あえて、一言で言ってしまうならば、『理想の美』を追求する考え方のこと。
伝統的で倫理的な、"美はこうあるべきだ!”というものを描いたのです。

 

ですから、女性の絵を描く場合も、そんじょそこらの女性でなく、女神や妖精といった神格化された女性像を描く。

観衆が、思わず見とれたり、崇拝したくなるような作品を描きました。

この"新古典主義”が理想とした「美」こそ、当時の美術界の「美」の主流となるのです。


これをアイドルで例えるなら、山口百恵ということ。

男性が理想とする"女性=清純であるべきだ!”という考え方に、

見事マッチした彼女は絶大な支持を受けたのである。

そして、その存在は、とても手の届かないところにあった。

アイドルが神格化されていた時代です。


 

こんな理想化された美に反発したのが、" ロマン主義 ”の画家たち。
「美は、そのような理想的なものだけじゃない!もっと、色んな種類があったっていいはずだ!」
つまり、ナンバーワンよりオンリーワンということ。

『理想の美』に対して、『多様な美』と言われることもあります。


" ロマン主義 ”の画家たちは、歴史的な事件や文学作品をテーマに、「美」を追い求めました。

「美」をよりドラマチックなものにするために、構図や色彩にもこだわり、

観客の心をつかむために、心情表現や感情のある絵を描いたのが特徴。


これまた、アイドルで言うなら、フリルや髪型でアイドルらしさを強調、

そして、ぶりっ子というキャラ付けで、男性の心を掴んだ松田聖子のようなもの。

存在感のオーラだけで人を惹きつけた山口百恵とは、また別のタイプのアイドルである。


 

さて、そんな" 新古典主義 ”と" ロマン主義 ”が対立している中、

クールベは、その両方をまとめて、批判してしまうのである。
なんとも、無鉄砲なことをしたものです。


「『理想の美』だろうが、『多様の美』だろうが、どっちも作られた「美」じゃないか!

「美」は作るものじゃない。現実世界の、その辺にあるものだ!」

と、このような" レアリスム宣言 ”と呼ばれる宣言をし、美術界に衝撃を与えることになります。
またまたアイドル界に例えると、こういうことである。


「『百恵ちゃんが清純』だろうが、『聖子ちゃんがカワイイ』だろうが、

そんなもん事務所やテレビが作った虚像じゃないか!

アイドルには、そこら辺にいる女の子でも、なれるんだよ!」
と、言うわけ。もうお分かりですね。


クールベの登場は、アイドル史で言うならば、【おニャン子クラブ】が登場したくらいの衝撃を与えたのです。
とにかく、クールベは、作られた「美」が一人歩きしてしまった美術界に危機感を覚えたわけです。
1980年代の日本で、" アイドルは、うんこをしない ”というとんでもない幻想が、

にわかに信じられていたように、17世紀のフランスでは、

「美」が人々の日常生活から切り離された存在になっていたのです。


 

そこで、クールベは、人々のお葬式の絵や、自分の日常の絵。

それから、この美術展でも展示されている、単なる 《波(写真・右)》 の絵を描いたり。

誰もが日常で見ることができる、本当に何気ないシーンを絵にしたのです。

今までの絵が、絵の中だけにしか存在しない世界だったのに対して、

日常的なものを絵にするという、まさに画期的な絵。


その上、それらを描くときには、美しくなるような装飾を何もせず、ただ単にありのままに描く。
これが、当時の人々に与えた衝撃は、ハンパじゃありません。

今まで手の届かなかったアイドルという存在が、普段は、同じ高校に通っている普通の女子が、

実は【おニャン子クラブ】のメンバーだと言われたくらいの衝撃。


これが、 " 写実主義 ”と呼ばれるクールベの唱えた新しい主義。
おそらく、多くの皆さんが、小学生時代に経験したことがある写生。

これが、まさに、この写実主義。

写生の時間が面倒くさかったという皆さん、恨むなら、クールベを恨んで下さい。


 

もう皆さんは、クールベが唱えた" 写実主義 ”が、どのようなものか、

ある程度、分かってきたと思いますが、さらに、ダメ押し。


【おニャン子クラブ】の代表曲の歌詞を使って、説明してみましょう。
1985年にヒットした「セーラー服を脱がさないで」の歌詞のサビの部分です。

 

♪週刊誌みたいな エッチをしたいけど 全てをあげてしまうのは もったいないから…あげない

 

あぁ、何とまぁ、赤裸々な。

そう、自分の心を、ありのままに。これが、" 写実主義 ”。

 


ちなみに、これに対し、" 新古典主義 ”の山口百恵は「ひとなつの経験」で、


♪あなたに女の子の一番 大切なものをあげるわ


と、肝心な部分をぼかし、"大切なもの”という言葉で理想化していた。

 


一方、" ロマン主義 ”の松田聖子は、「青い珊瑚礁」の中で、


♪あ~ 私の恋は 南の風に乗って走るわ


と、自分の恋愛を、比喩を用いて、よりドラマチックなものにしているのがわかる。


 

さて、" 写実主義 ”を唱えたクールベは、この後、どうなったのでしょうか。
もちろん、美術界から、激しい非難を浴びることになる。
「そんなもの、美しくもなんともない!美術じゃない!」と。
後ろ指を指されたのである。
しかし、彼が唱えた" 写実主義 ”が、着実に、その後の美術界に影響を与えていき、

今日に至るのは、言うまでもありません。


そう、【おニャン子クラブ】以降のアイドルが、神格化された存在から、

現代のように、身近な存在へとなったように。

 

最後に、もう一つ。
クールベの描いた絵には、ある特徴があります。

それは、どれも一瞬を切り取ったものであるということ。
現実のものは、移り行くものだからこそ、美しい。

それは、決して、作られた「美」では、表せないものです。
【おニャン子クラブ】もまた、女子高生という、

人生における一瞬にスポットを当てたアイドルであったのは、クールベの影響と言えるのかもしれません。

 


さぁ、見逃すと、後ろ髪を引かれる思いをするかも知れません。
「水の情景-モネ、大観から現代まで」展へ行こう!