いきなりですが、まずはここで、一つお知らせがあります。
それは、この“とに~の美術展へいこう!”の姉妹編とも言える“とに~の美術館へ行こう!”というシリーズが、
なんと4月8日創刊の アート系webマガジン [DRAGON ART CREATOR'S REVIEW] で
連載がスタートする運びとなりました。
このたった1文字しか違わない企画は、とに~が知る人ぞ知るような美術館を紹介しようという企画。
良かったら、雑誌ともどもご覧ください!↓
そういうわけで、そんなおめでたい今回。
紹介する美術展は、今、日本中の美術ファンがもっとも注目を寄せるアノ美術展です。
上野の東京国立博物館で開催されている“レオナルド・ダ・ヴィンチ―天才の実像”です。
イタリアのウフィツィ美術館の至宝とも言われるレオナルド・ダ・ヴィンチ作の名画 《受胎告知》 (写真・左)が、
何とここ日本に来日。
これは、貸し出した当の国・イタリアで、
来日することに猛烈な反対運動まで起こったというほどの重大な事件なのです。
本当に、まぁ、よくぞ貸し出してくれたの一言に尽きるでしょう。
というわけで、今回は、僕がこの美術展の良さを、わざわざ語るまでもなく、
「とにかく日本で 《受胎告知》 が観れるのは凄いことだから、これを行かない手はない。」とだけ伝えたなら、
それで十分なのではないかという気がします。はい。
会場は2ヶ所に別れており、まずは 《受胎告知》 が展示されている
東京国立博物館本館の特別5室(通称「特5」)を観ることになります。
会場に入る前には、簡単な手荷物検査と金属探知があり、
いやでも、特別な絵と対面するだという緊張感が高められます。
特5の会場は、照明がほとんど落とされ、 《受胎告知》 の絵だけがライトアップされている状態です。
もう完璧にVIPの扱いでした。
《受胎告知》 の絵自体からも、スターのオーラが出ており、思わず見入ってしまいました。
いつものように、絵に対してツッコミを入れるような、そんな無粋なマネはできません。
というか、ツッコむ間もなく、会場を後にせざるを得なかったと言うのが、本当のところです。
係員の方に、会場の外へと誘導されます。滞在時間は、たぶん5分もありません。
「ゆっくり見たかったら、イタリアのウフィツィ美術館に行け」
そんな無言のメッセージが、会場には漂うようでした。
《受胎告知》 の絵を見終わると、次は平成館の第2会場へと向かうことになります。
ここでは、ダ・ヴィンチの手稿、つまりアイデアノートに記されたダ・ヴィンチの天才的な研究成果が
模型や映像でうかがい知ることができます。
おなじみの 《ウィトルウィウス的人体:人体均衡図》 (写真・中)をはじめ、
ダ・ヴィンチ作の飛行船の模型などなど。
数学・科学・物理学・人間工学・航空力学・生理学・気象学・生物学・視覚のメカニズム…。
一生かけて研究するようなことを、一人でいくつもこなしていることには、もはや凄すぎて呆れてしまうほど。
天才にも、ほどがあります。
しかし、この第2会場に関しては、科学博物館を見学しているようで、
全く美術展ではありませんでしたので、この辺までに。
さて、これだけ、この美術展で、その天才ぶりがフューチャーされている“万能の天才”レオナルド・ダ・ヴィンチ。
彼が天才であることは、現代の我々にとって、それは疑う余地のないものです。
が、彼が活躍したルネサンスの時代、その当時の人たちもダ・ヴィンチを天才と思っていたのかというと、
それは想像するに、答えはNOでありましょう。
と言うのも、当時は、まだ宗教が民衆にとって当たり前の時代でした。
まだ地球の中心を太陽が回っている時代です。
そんな時に、一人(…厳密には、他にも科学者はいますが)“科学”という新しい考え方を持ったダ・ヴィンチ。
描く絵にも、ふんだんに科学的思考を取り入れていきます。
当時の人々にとって、“科学”は自分の理解の範疇を超えた世界。
当然、何となくすごいぐらいにしか伝わらなかったことでしょう。
現代でいうなら、僕らが、スピリチュアルだのオーラだの、自分の理解の範疇を超えた世界を、
何となくすごいなと思う感覚に近いのではないのでしょうか。
今の僕らが江原さんや美輪さんをすごい人とは思っても、『天才』とは思わないように、
ダ・ヴィンチも当時の人間には『天才』とは思われていなかったことでしょう。
と、そういうわけで、ダ・ヴィンチの絵を、『天才』という固定概念をはずして、
当時の人たちの視点に立って観てみることにしましょう。
すると、どうでしょう?また違った雰囲気で見れるはずです。
自分の理解できる世界観を超越した概念を取り込んだ作品です。
映画や小説では、これは、まさしくホラー。
そう。ダ・ヴィンチの絵は、当時のホラー作品だったのです。
しかも、ただのホラーではありません。
そこは美術界に、燦然と功績を残したダ・ヴィンチです。
ホラー映画界を制し、本場ハリウッドの世界を席巻するまでになった
【Jホラー(ジャパニーズ・ホラー)】の怖さのノウハウを全て、
500年前にすでに、絵の中に取り入れていたのです。
それでは、その辺りをゆっくりと紐解いていきましょう。
【Jホラー】の怖さの秘密は、全部で4つあります。まず一つ目が、「水」。
【Jホラー】の金字塔とも言える映画 《リング》 では、井戸が重要な要素でしたし、
《仄暗い水の底から》 はタイトル通り、水そのものが重要な要素でした。
日本のホラー映画には、独特のジメジメとした湿気があります。
これらが、生理的な嫌悪感を抱かせるのです。
実は、ダ・ヴィンチも、それを知ってか知らずか、絵の中に水を描きこんでいるのです。
それは、この 《受胎告知》 にも描かれているのですが、おわかりでしょうか?
画面奥に描かれた景色が、若干青みがかって、そしてぼやけています。
これは、"空気遠近法”と呼ばれる技法。
大気中の水蒸気によって起こる科学的な現象を、ダ・ヴィンチが取り入れたものです。
空気を描きたいというとんでもない挑戦を思いついたダ・ヴィンチが研究の末に編み出したのが、
空気中の「水」を描くことだったのです。
そして、二つ目が、 「母性」。
《リング》 でも、 《仄暗い水の底から》 でも、また 《呪怨》 でも、
【Jホラー】の全てにおいて「母性」がテーマになっていると言っても過言ではありません。
同様に、ダ・ヴィンチ作の絵画の中で、「母性」をテーマにしたものは、実に多いのです。
今回の 《受胎告知》 はもちろん受胎を告げられた瞬間のマリアの絵。
またダ・ヴィンチの代表作 《モナ・リザ》 (写真・右)も、
最新の研究結果から妊婦の絵だと言われています。
他にも 《聖アンナと聖母子》 など、母子像を描いた作品が多いのです。
それから、【Jホラー】の怖さを強調するテクニックとして、あえて幽霊の姿を「ぼかす」ということがあります。
海外のホラー映画。例えば、 《ゾンビ》 や 《フランケンシュタイン》 などは、常にその存在が描かれ、
そのグロテスクな姿や「バン!」と音を立てて出現するなどの行動が怖さを呼ぶのですが、
【Jホラー】の幽霊は、なかなか姿を現しません。
そして、現れたとしても、手や顔の一部など、あえてその存在をぼやかすことで、
観客にイマジネーションの恐怖を与えるのです。
「ぼかす」テクニックと言えば、ダ・ヴィンチも負けていません。
彼が絵を描く際に、開発した新技法があります。それは、"スフマート”。
名前だけ聞くと、小さなスーパーのようなこの名前ですが、これは日本語に訳すと、そのものズバリ「ぼかす」。
人が事物を見るときに、輪郭線がないことを発見したダ・ヴィンチが、
絵を描く際に輪郭線の部分を、色の明暗だけで「ぼかす」ように描いた画期的な技法なのです。
そして、最後の秘密が、「黒髪」
もはや、【Jホラー】の幽霊の代名詞となった・貞子。
そのトレードマークは、言うまでもなく長い黒髪。
最近公開された【Jホラー】の 《エクステ》 では、「黒髪」そのものが重要な恐怖の要素となっているほどです。
そう言えば、 《モナ・リザ》 も立派な長い黒髪です。
実は、この 《モナ・リザ》 の黒髪には、昔から一つの謎がついて回っていました。
それは、ルネサンス時代のイタリアでは、肩まで伸ばした髪は、少女か貞淑でない女性が選ぶ髪形。
このため社会的地位の高かった 《モナ・リザ》 のモデルがなぜ、この髪型をしていたかという謎です。
この答えは、もうおわかりですね。
【Jホラー】作家のダ・ヴィンチによる、恐怖の仕掛けだったというのが、僕の見解です。
と、こうして、ダ・ヴィンチの絵を観賞するとき、『天才』というフィルターを外したなら、
《モナ・リザ》 も単なる名画ではなく、表面の絵の具がひび割れながらも、
いまだに薄ら笑いを浮かべ続ける黒髪の女性の絵という
恐ろしい【Jホラー】作品にしか見えてこないではありませんか。
そして、今回の 《受胎告知》 もまた然りです。
マリアは身に覚えのないうちに、誰の子ともわからない子供を身ごもってしまったのです。
それを、いきなり現れた天使(ヒトではないもの)に告げられる。
あ~、何とも恐ろしい絵です…。
この美術展、怪奇終了…もとい会期終了は6月17日。
さぁ、ダ・ヴィンチ作の身の毛もよだつ 《受胎告知》 を見るために
“レオナルド・ダ・ヴィンチ―天才の実像”へ行こう!
