別に命日でも記念日でもないのだが、ふと思い出したので、故・マーカ・テンドーさんのことを書く。
世の中でもっとも強い想いの力の一つは「憧れ」だと思う。
コネもツテもカネもない環境で、「ああいう風になりたい」と思う力があるから、ここまでたどり着けた。
テンドーさんはそういう憧れの存在だった。
テンドーさんは「カッコいい」人だった。
手品が上手いとかそういうことに関係なく、とにかくカッコイイ人だった。
学生の頃は文字通りビデオテープが擦り切れるほど、テンドーさんの演技を見まくった。
そんな憧れの人とふと出会う機会があった。
当時僕はデパートのおもちゃ売り場にあるマジックコーナーでバイトをしていたのだが、そこにテンドーさんがひょっこり現れた。
長渕に憧れて状況してきた奴が、長渕に会ったようなものだ。
それだけでもびっくりしたのだが、休憩の時間に「ちょっと飯食いに行くか?」と声をかけてくれて、デパートの最上階にあった中華料理屋に連れていってくれた。
そのときに初めて中華のおこげを食べた。
それ以外にも結構いいものをご馳走になった。
見かけだけじゃなく、そういうところもカッコいい人だった。
僕の年代のマジシャン、あるいはそれより下、また上の人に聞いても、みんなテンドーさんには世話になった、と口を揃えて言う。
テンドーさんは、そんな人だった。
畏友・小林俊晶と会ったのもその頃だ。
当時関西に住んでいた彼を、僕の四畳半の下宿(ハトと同居)に泊めたことがあるのだが、あるとき「これからテンドーさんのうちに行くけど、一緒に来る?」と誘われた。
そのときバイトが入っていたが、無理やり休ませてもらって、つくばにあるテンドーさんの自宅にバスに乗って出かけたのだった(その頃はつくばエクスプレスも無かったのだ!)
テンドーさんの奥さんも交えて、4人でマジックのビデオを見ながら、朝までマジック談義をしていた。
とても濃厚で贅沢な時間だった。
この後、僕はマジシャン生活の節目で、テンドーさんとの深いご縁を何度も頂くことになるのだが、その始まりがこれだった。
テンドーさんと出会ったときの、あの人の年齢を超えてしまった今、ふと自分に問うことがある。
俺はあの人のように、憧れられる存在になっているだろうか?
及ばずとも、他人を情熱に駆り立てる存在であれるだろうか?
と。
