精神科の入院は1ヶ月半だった。
薬のおかげで、自分の世界は少しずつ戻ってきた。
でも、
(これは…相当な矯正が必要だぞ…)
自分のことを、そう、感じていた。
退院してからも、
レッスン中にふと、
(ここから飛び降りたら…)
そんな考えがよぎることがあった。
ある時は、
音が怖くなった。
人の声と音楽が混ざり、
何が何だかわからなくなるのだ。
それでも、
経験だけを頼りに
レッスンをこなした。
メニエールの薬と、抗うつ剤、パニック止め…
服薬も3年近くなり、
自分は40歳を超えていた。
そんなある日、
「けいじさん、心を壊したそうですね…」
インストラクター仲間から連絡がきた。
心理カウンセラーの資格を取ったその仲間が、
お茶に誘ってくれた。
メニエールのこと。
音が怖いこと。
初めて、自分のことを“話した”。
ゲイであることは、言えなかったが。
それでも、
心の内を話しただけで、
少し耳の調子が良くなったのだ。
(…変われるかもしれない)
ぼくは、その人が学んでいる心理学を調べた。
「全肯定!心理学講座」
大阪。20万。
(誰もぼくのことを知らない…
ここなら…変われるかもしれない)
そう思って、申し込んだ。
大阪の講座。
4人ずつ向かい合っての自己紹介。
ぼくの番が回ってきた。
(…自分は…ゲイで…
ただ、友達がほしい…)
初めて、震える声で、第三者に言った。
すると、、、
「そうなんだ。」
たった、それだけだった。
正直、
へっ??それだけ???
だった。
でもその一言で、
40年以上もただひたすらに、
自分のことを覆い隠してきた
重たい重たい真っ黒い塊が取れた。
(…大丈夫…だった…)
肩の高さが何十センチも下がった気がした。
講師の先生は肩をさすってくれて、
向かいの女性は涙を流してくれていた。
その日の終わりに、
「なぁ、飲みに行こや。」
そう声をかけてくれた男性がいた。
自分をゲイだとわかっていて、
普通に誘ってくれた、初めての男性だった。
受け入れられた……
心から、そう思った。
大阪の二日間で、
本当の自分でいても大丈夫な場所があると、
初めて知った。
そして、
北海道でも、
少しずつ自分を出していくことになる。
でも……
…まだ……怖かった………
