先日

 

リビングのテーブルに

 

あなたのやってほしいこと やります

「やってほしいの~券」

 

と書かれたカードが 置いてあった

 

 

恐らく 母がデイホームから

もらってきたものだろう

 

ミニゲームか何かの 賞品として

 

 

 

ステキじゃない これ

なに やってもらう?

 

と 思わず盛り上がって

聞いた 私

 

しかも よく見ると

その紙の 隅っこに

「職員指名もあり」

と書いてある

 

私の妄想が 一気に広がった

 

 

ねえねえ

お気に入りのスタッフとか

いないの?

 

う~ん そうねえ

 

意外なことに 母は

いまひとつ 気のない返事

 

 

あれだけ スタッフがいるんだもん

 

ひとりくらい

イケメンだな と思う人

いるでしょ

 

その 好みのタイプのスタッフ 指名して

足や腰を揉んでもらったら

結構 うれしくない?

 

そう 自分で言いつつ

その状況を想像して

ちょっと 赤面したりして

 

 

ところが 母の返事は

 

え~ イヤよ そんな

男の人に 身体 触られるなんて

 

 

結婚生活を50年以上重ねた 89歳が

信じられないくらい

ウブなことを 言ってきた

 

 

じゃ

二人でデート みたいな感じで

お散歩してもらうのは?

 

そんなの 恥ずかしいわよ

みんなと一緒なら いいけれど

 

 

金婚式も祝ったはずの 89歳が

またも そんなセリフを

 

 

 

人間 歳を取ると

持っている欲望が

 

食欲 性欲 金銭欲

 

のうちの どれかに

集束されていく

というけれど

 

どうやら 母のそれは

性欲ではなさそうだ

 

 

 

 

結局 その日

母と出した結論は

 

ちょっとオシャレそうな 女性職員に

マニキュアをしてもらおう

 

だった

 

 

うちにある ピンクのマニキュアと

 

百均で

カワイイ 爪用デコシールも

買ってきて

                                         

 

 

でも

 

母は 未だ

その希望を

スタッフに 伝えてはいないようだ

 

 

多分

伝えることを 忘れてるんだろう

 

伝える内容も 忘れてるかもね

 

もしかしたら もらった券のことすら

 

 

 

それでも

 

やってほしいこと 言ってごらん

 

僕に(私に)できることなら

やってあげる

 

そんな

やさしくて うれしい言葉を

送ってくれた

スタッフの 心遣いは

母に しっかり届いてる

 

と 思いたい

 

 

 

その券は

あの日以来

 

お守りのように

ずっと

母のバッグの中に ある