先日
心優しい友人から カニをいただいた

おいしかった

それで 単身赴任中の夫のことを 思い出した



夫は カニが大好き

子どもが 幼い頃
いくつかの家族が 集まって
よく バーベキューをしていた


ある時 グリルの上に 
カニの足が 豪勢にのっていたことが あった

ある家族が
大フンパツして 持ってきてくれたものだった

みんな 大喜びで食べていた

夫も

ボク 北海道出身なんですよ
だから カニは大好物なんです

と 言いながら
誰よりも 手早く 器用に
ひょいと折って つるりと出して ぱくりと食べていた


友人が いくら 豪勢に持ってきてくれた
と 言えども
当然 数には 限りがある

でも
夫は ひとりっ子の KY男
もくもくと ひとり
パキッ つるり パクパクパクパク…
パキッ つるり パクパクパクパク…

そんな夫に みんなの視線が 次第に集まる

しばらくして
その視線に ようやく 気付いた夫

カニを食べる手を 止め
うれしそうに 言い出した

 カニって ボクの場合
 おふくろの味 なんですよ

子どもの頃
毎日 家に帰ると 母親が おやつに
 カニを茹でて 待っていてくれてね…


カニが おやつ?!

皆の中から どよめきが上がる

す…すごい 〇〇さん
 毎日 カニ 食べてたなんて
おぼっちゃまだったんですね

誰かが 驚きの声をあげる
それに答えて 夫は言う

いや カニだけじゃないですよ
ウニも アワビも イクラも ホタテも…

どよめきの波は 何度も寄せては 引いていき
皆の中では いつの間にか 夫は
 すごい家のお坊ちゃま
と いうことに なっている

その後も 彼は

朝ごはんには
卵の代わりに

イクラを乗せて 食べていた

だのと 言い放ち 
再び カニに 手を出すが
もはや その場の誰もが

このカニは
このおぼっちゃまに 食べられるために ここにある

ということを 共通認識としていた


カニを お腹いっぱい食べ終わって 
ひとり 満足そうな夫


私は 知っていた

彼の 学校帰りの 海沿いの道には
ドラム缶で 取れたてのカニを 
茹でているオジサンが いたことを

海岸では
火を焚いて 取れたてのホタテを 
焼いてるオバサンが いたことを

それらは
高級食材でも 何でもなく
駄菓子のように 子どもたちに売られ
食べられていたことを



でもね
夫の肩を 持つわけじゃないけど
彼は 何も ウソはついていない
みんなが 勝手に誤解しただけ

だけど
みんなが誤解したのも わかる

だって 私も かつて
同じように 誤解してたから

もちろん 勝手に


悔しいので 
その後 彼に ニックネームを付けた

びんぼっちゃま