昔
付き合った男が いた
彼は 留学から帰ってきたばかりの
サラリーマンで
実に スマートで 堂々とした雰囲気が
ステキだった
いつも ネクタイは ダブルノット
結び目を 二重にして 大きめに作っていた
少し短めなのが 本場のアメリカントラッドなんだよ
と 言って
普通より かなり短めに 締めていた
そんな 彼を
最初は
ふうん さすがに アメリカに留学してた人は 違うな~
カッコいいな~
と 思っていたんだけど
でも 付き合ううちに
だんだん 自意識過剰 自信過剰な部分が
鼻についてきて
そのうち
会うたびに 喧嘩ばかり
そして とうとう
最後の日が やってきた
私たちは
おしゃれな レストランで
彼のうんちく話を 聴きながら
ワインをいただき 食事をしていた
もちろん そんなうんちく
私は もう うんざり
聞く気は ない
そんな 私の態度に むっとしたのか
彼は 話をやめ
沈黙のなか 二人は 黙々と 食事をし 飲んだ
ふと
彼が サラダを取ろうとして 手を伸ばしたほうを 見た時
彼の ネクタイの先が
テーブルの上の 赤いトマトソースに
今 まさに 触れようとしていた
でも 私は黙っていた
彼が サラダを取った 瞬間
ネクタイは ソースの上を なでるように移動し
彼の手の動きに 合わせて
ネクタイは ソースの上を 何往復もした
その後 彼は 姿勢を正し
ネクタイの裏についた ソースは
今度は
彼の 白いワイシャツを 赤く染めた
私は それを見ながら
思っていた
バカみたい
カッコつけて 短いダブルノットに するから
こんなことになるんじゃない
そして 気づいた
ああ もう 私は この人のこと
好きじゃないんだな
もう 30年位前の ワンシーン
ネクタイのマンガを 描いていたら
突然 思い出してしまった
もう その人の名前も 忘れてる