10年以上前のこと。
最寄り駅から電車に乗ろうとホームに上がっていくと一人の青年が目に入った。
長袖の白いティーシャツにジーンズ。
イヤホンで何か聴きながら小さく同じステップを踏んでいる。
両手はイヤホンを押さえるように耳にあてられている。
私はオバサン根性でジリジリと3m位近くまでいくと観察した。
ずっと同じステップを繰り返し、伏し目がち。
口元には幸せそうな小さな微笑みをたたえている。
「それにしてもなんて美しい青年だろう」と思った。
少し乱れた髪が太陽の光に茶色っぽく輝いている。肌は赤ちゃんの肌のようにシミもなく、白く生き生きしている。
スラッとした身体が揺れていて本当にきれいだ。周りのことは何も見えていなくて自分だけの世界でステップを踏んでいる。
電車がきて私は乗り込んだが、青年はそのままで自分の世界。
私は電車の中から青年の姿が見えなくなるまでみていた。
電車の中で魔法からさめたように考え出した。
「でも、20年近く生きてあの肌の白さってあり得る?ずっと病気でもしてたのかな?でもそんな感じはしなかったけど?あの人は本当に人間だったのかな?天使
?また見掛けられたらいいな」
でもなんとなく心のどこかで、もう二度と見掛けることはないと感じていた。
それから10年以上、一度も見掛けることはなかった。
でも本当に時折思い出す。
まるでそこだけ世界から切り取られたような鮮やかな青年の姿。
そんな時は決まって、自分の心にゆとりがあり、のんびり電車を待っている時だ。
☆武藤真美☆
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