おとうさんは、半年くらい前から少しずつまた、絵を描き始めた。
調子が悪かった頃は、昔描いた絵を引っ張りだすことで精一杯で、眺めるだけで終わっていたけれど、
年月を経て、調子も良くなり、昔の絵に描き加えることができるようにまでなった。
昔からおとうさんの描く絵は、少し暗い絵。
寂し気な雰囲気の海辺や、誰も目にしないような古い倉庫。
空の色も、やっぱりどよんとした色。
若い時に描いた絵も見た事があった。ピカソに影響されてか、青の時代。
やっぱり若い時も暗いトーンの絵ばかりだった。
どれもが、似たり寄ったりの絵で、見分けがつかないくらい。
でも、子供の頃からずっと見てきた私は、おとうさんの描く絵が好きだけど、
いつも、「おとうさん、飽きないなあー。」と思ってた。
昔から描きためた、百点近い数の絵。
調子が良くなって、昔描いた絵に描き加えている。
どんな仕上がりになったか、時々見てみるけれど、そんなに変化は無かった。
だって、暗い絵に、暗い絵の具を加えるんだもの。。
しばらくの間、そんな事を繰り返していた。
ある日。ふと、また絵を見てみると、驚いた。
明らかに違う絵ができていた。
あの薄暗い空に、明るい雲を描き加えて。
あの寂れた重々しい建物に、光が差し込まれてた。。
今まで、見たこともない絵になっていた。
ずっと変化しなかった絵が、
この長い時間を経て、大きく変化した。
おとうさんの絵に初めて、本当に明るい光を見た。
陽気な明るい日光じゃなくて、穏やかな日だまりのような優しい陽でもなくて。
暗い影を落としながら、やっと差し込んできた一筋の光だった。
その絵を見て、なんだか、泣けてきた。
人間て、すごいなあ。
なんてことまで、思ってしまった。
人はいくつになっても成長し、変化していくってことを
おとうさんが、私に見せてくれた。