言わずとしれたジュリーの名曲です。
さて、サラダの中央でスポットライトを浴びた主役とは?
「・・・豚しゃぶですか?」
「そう、上ロースですよ。」
上ロースはいいんです。
しかし、量が半端ではありません。
これまでのメニューを考慮すると、あり得ない量です。
トッピングというより、豚しゃぶにレタスを敷いたってかんじ。
「さあ、豚しゃぶサラダを召し上がってください。」
Yさんは、主張されます。
あくまで、これは「サラダ」であると。
すいません。
「お肉料理」にしか思えないのは、私だけでしょうか?
まだ、胃の中でカルビくんがしっかりと自己主張されておられます。
「先生、ごまだれにします?それとも、ポン酢で?」
ここは、少しでもさっぱりしたいところ。
「じゃあ、ポン酢で。」
ごまだれのビンを脇にどけようとされるYさん。
しかし、その瞳がキラッと光ります。
「あら、でも、ごまだれがちょうど使い切れそうね。」
「・・・。」
「先生、ごまだれでもよろしいかしら?」
だったら、最初から訊かないでください。
「さあ、ごまだれを・・・ダバダバダバ~と。」
その効果音からしてお分かりでしょう。
かけ過ぎです。
明らかに。
「で、最後にポンポンと。」
と、とどめにビンの底を叩かれるYさん。
意地でもごまだれを使い切る所存。
鳩山総理にもこれぐらいの覚悟が欲しいところだ。
「さあ、先生、どうぞどうぞ。」
「・・・では、頂きます。」
うっ!
こ、これは・・・。
見事、ごまだれの味しかしないじゃないか。
しかし、ここは。
「いやあ、さすがにこの豚肉はやわらかくて、甘みがありますねえ。」
「でしょー。何と言っても上ロースだから。」
私の生存本能が、唇をそう動かすのです。
それにしても、きつい。
このタイミングで、お肉はないだろう。
胃の中では、牛と豚のデュエットが不協和音を奏でています。
さらに、ごまだれの酸味と胃酸が組んだ最強のタッグ。
食道を上へ昇ろうと暴れています。
「・・・ごちそうさまでした。」
「はい、お粗末さまでした。」
終わった。
いろんな意味で、「終わった」かんじだ。
これは、帰宅後、胃腸だけでなく、腎のツボで生命力も補う必要があるだろう。
その分、イキイキとされた教祖様。
しっかりと精気を吸い取って頂いたようだ。
半ば放心状態。
瞳孔が開いたままの私に、
「はい、先生、おみやげですよ。」
Yさんが現実の世界へ引き戻してくれました。
「これは、ぴょんぴょんですね?明日にでも早速頂きます。」
さり気に賞味期限をチェック。
先月、おみやげに頂いた冷麺。
当たり前のように、5日ほど過ぎていたからだ。
大丈夫、「14日まで」だ。
今日は、6日。
まだ、一週間近くあるじゃないか。
こうして、その夜も黒魔術の結界から解放されたのです。
-翌日。
「あっ、そうそう。昨日、冷麺もらってきたから、茹でてくれる?」
夕食前、母に声をかける私。
「ああ、これね。」
「そう、それそれ。」
しかし、母は訝しげな顔で。
「訊こうと思ってたんやけどね。」
「えっ?」
「これ、ほんまに食べるん?」
「ほんまにって・・・うん、おいしいで。」
母は製品表示欄をもう一度確認し、
「でも、これ、賞味期限、過ぎてるよ。」
「えっ、まだ、一週間近くあるやろ?」
「ほら、自分で見てみ。」
母から手渡された冷麺のパック。
「2010年4月14日までおいしく召し上がれます。」
ねっ、ほら、14日まで大丈・・・はっ!!!
4、4月。
4月って書いてあるぞ。
え~と、確か、今は5月だったよな。
ってことは、ひと月近く前に切れているじゃないか。
何と言うことだ。
未だ黒魔術の結界にとらわれていたというのか、私は。
待てよ。
先月、冷麺をお土産にもらったのは、4月の半ば。
それで、5日ほど賞味期限を過ぎていた。
ってことは、同じ時期に買いだめした冷麺だというのか・・・。
数日しか賞味期限がない生麺タイプの冷麺。
そ、それを数ヶ月単位で買いだめされるなんて。
アパルトヘイトどころか、見事に賞味期限が撤廃されているではないか。
これは、警鐘なのだろうか?
日々、時間に追われながら生きている私への。
時の流れは、もっと悠久で深遠なもの。
それに、身を任せながら生きなさいと。
「♪
時の~ 過ぎゆくまま~にぃ この身を任せ~」
思わず心の中で口ずさむ私。
あらためて、Yさんの器の大きさを痛感させられました。
ひと月近く賞味期限が過ぎた冷麺。
それを当たり前のように、お土産として手渡される器量。
「何事にも寛容であれ。」
冷麺のパッケージから、教祖様のそんなメッセージが聴こえてきそうだ。
これから、冷麺のおいしい季節。
もし、あなたの食卓にも、賞味期限の切れた冷麺がのぼることがあったなら。
黒魔術の結界は、すぐそこまで張り巡らされていることだろう。
-完-
(2010/5/9)