付き合い始めた頃、
私はクマオに不満を言わなかった。
不満がなかったわけではないし、
猫をかぶっていたわけでもない。
不満はそれなりにあった。
どうしてこの人はいつもこうなんだろうとか
いろいろ。
だけど、
どの道この人との将来はないわけだし、
その時楽しければいいと思っていたので
わざわざそんな話をしてせっかくの時間を
台無しにしたくないと思っていた。
だいたい人って先のことを考えるから
どうしても直してほしいところとか
出てきて、
「こういうとこ、どうなん?」となって
空気が悪くなるのだから。
ある時、
さぁ今からベッドインというところで
クマオが私のブラウスのボタンに手を
かけたその時、
クマオの電話が鳴った。
「もうこんな時に」という顔で
それでもクマオは電話に出た。
声が漏れて聞こえた。
明らかに女性の声。
「昨日大丈夫やった?」
大きな声だったので
はっきりそう聞こえた。
「うん」
クマオはめんどくさそうな声で
そう答えて、
不機嫌な感じで電話を切った。
その間私はベッドに横たわって
じっと待っていた。
電話を切ってから
クマオは焦った表情で
私の顔色を覗き込むようにしていたけれど
私は何にも言わなかった。
「誰?」とも「今の何?」とも。
今では考えられないけれど、
きっと顔色ひとつ変わっていなかったと
思う。
どうでもいいと心底思っていた。
探ることもなかった。
とりあえず今この人は私といっしょに
いるわけだし。
この話を当時の友人に話した。
彼女は「え?」という顔をして
「クマちゃん、浮気?」と言ったので
「さぁ、浮気というか、
私が浮気相手かもね」と
余裕で答えていたあの頃の私は
どこへ行ったのだろう。
時々この時のことを思い出す。
我ながら私、いいじゃんと思う。
私にこんなふうにできる天性のものがあるなら
きっとまたそこに戻れるはず。
今よりずっと生きやすくなるはず。
今日またこれを着ている。
これもかなりヘビロテ。