7月の最初の週末。関西地方は豪雨に見舞われた。
家の近所の川の増水による避難勧告が出始める。
夜になると、不安が押し寄せ、私は一睡もできなかった。
今頃クマオはどうしているのだろうか。きっと女を抱きながら眠っているに違いない。
こんな夜なのに何の連絡もしてくれないクマオ。ひどいよ。ひどすぎる。
憎しみが込み上げる。クマオに対しても、何も知らないでクマオの腕枕で眠っているはずの
クマオのその女にも。恐怖で身体がガタガタ震える。
土曜日のお昼近くになってクマオから電話があった。
「りこ、今すぐ避難した方がいい。○○川が大変なことになってる。いつ決壊しても
おかしくない状態。ママんちに行った方がいい。今ならまだ車も出せる」。
母が住んでる実家がある町は、今住んでいる所よりまだ地形的に高い。
クマオはそこに逃げろと言う。やっぱり私の事を心配して電話をかけてきてくれた。
一瞬嬉しかった。が、すぐにひねくれた思いに囚われる。
クマオは私が実家に避難すれば、自分は心置きなく女を守れるはずだ。
そう思っているに違いない。「行かない。ここにいる。どうなってもいい。」
「アホか!そんなこと言ってないで一刻も早く家を出ろ!」
「いや。クマオさんは?クマオさんは誰といるの?」
「家だよっ!」
「じゃあ、私も家でいい」
「りこ、頼むよ」
「いや」。
絶対に嫌だ。クマオが女とこの豪雨を凌ぐなら、私は一人ここで死んでやる。
本気でそう思った。窓の外を見た。不気味に雨は降り続いている。